車のエンジンを切る。 駐車場からアジトまでは、歩いて2分ぐらいか。 「さ、着いた。荷物、忘れんなよ。」 「−−はい。確認します。帰宅後、すぐにお夕飯の準備をしても宜しいでしょ    うか?」 「うーーん(背伸び)。うん、そうして。今日は疲れたなぁ。」 みかげは荷物をまとめる。茶色の小さな紙袋がある。昼に買った物かな。 「−−デジコさんは、修復可能なのでしょうか?」 「次回やね。今日はアンインストールしまくったし。腕を見るのは自己整理が  終わってからだ。」 「−−メンテナンスに対して、大変に嫌悪されていた様子でしたが。」 「ははは。面白かったね。次はおとなしいだろうよ。」 *********************************** 「ぐに゛ゅーにょにょ。ほどくでしにょ!ふぬー!後悔するでし。に゛ょ!」 *********************************** 「−−気の毒という表現が最適かと推測いたします。」 「はははは。自業自得だ。ワソ君もデジコも。」 「−−目から何かを出すと言われていました。」 「でんよ。大方ビームを出すつもりだったんだろ。」 「−−ビームがでるのですか?!」 「だから、でんよ。元キャラが目からビーム出るんだ。鍵鍵。あれ?れ?」 「−−アジトの鍵でございますか?・・・師匠の胸ポケットとメモリには…」 「・・・あ、ホントだ。ありがと。」 アジト内。 みかげはご飯の支度をしだす。 僕は、コーキングの準備をしながら、荷物に埋もれた窓から空を見る。 いろいろ考えてしまう。 セリオが僕の家に来た。 僕がセリオに惚れたのはいつだろう? しょうゆを焼く、いい匂いが漂う。 今かな? 今もだ。 「−−師匠、お食事の用意が出来ましたが。」 「うん、ああ。・・・おっ!肉か!ステーキか!」 「−−はい。和風焼きです。データを参考に、予測で作成したのですが…」 「いいねいいね。・・ん!・・おいしそうだ。」 口に放り込む。 じっと見つめるみかげ。顎を引き、眼鏡を下げ上目づかい。 「−−・・・」 「うまい!すごいっ!肉も上質だが、作りがいい!」 安堵するみかげ。 「−−お褒めいただき、恐縮です。本日ひすいさんに料理データを頂いたので、    普段のものからアレンジすることが出来ました。」 「本当にうまいよ!」 「−−肉も上質です。飛騨牛を購入いたしました。」 「そうか。そうか。」 「−−いわゆる肉ヒダです。」 「ぶーーーーっ!!」 「−−そこの肉ヒダの厚い部分などは、汁が多くあふれていますので、より美    味しく頂けるかとぞ・・・あうっ!」 (ビシッ) □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□      真大須芹緒2!    ・・・また、大須でねっ! □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□ 「−−申し訳御座いません。そのような意味合いが有るかとは存じなかったが    故、大変失礼な発言をしてしまいました。」 「うむ。解ればよろしい。」 「−−さぞお食事の気分が害されてしまわれた事を謝罪いたします。」 「よかよか。」 「−−・・・別な食欲は沸かれたかもしれませんが・・・」 そういって、正座を少し崩す。 僕の箸が止まる・・・。2秒。 しまった!!つっこみそびれた。 「−−お食べになられる場合は、やはり部屋はやや暗いほ…はうっ!」 (ぴし) ご飯を食べ終わり、みかげが後片付けをする。 そのあと、みかげを座らせ防水コーキングを行う。 みかげは、カジュアルのボタンを外し、さらっとおろす服。背中を向けて出す。 それから、きゅっと服を胸に抱え、胸を隠す。 いいねぇ。ちなみにデフォ動作だ。 「げっち、背中のロックはずして。」 「−−はい。オーナーと判断します。」 パカン 「さてと。防水シーリングっと。どこだっけ?こないだの雨で検知したよね。」 「−−はい。右肩上部です。それから、右腰上部辺りです。・・・中からのほ    うが、確認は容易かと推測します。」 「・・・あった。うん。やるよ。」 「−−どうぞ。」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「外皮が痛んできたねぇ。」 「−−そうで御座いますか。貼り替えが必要なのですか?」 「いや。まだ、いけそうだね。」 「−−貼り替えは高いと思います。少し安心しました。」 「冬のボーナス貰ったら、貼り替えるよ。よっと。うまく先端が入らないな。」 「−−持って半年ですか。短いです。」 「まだ持つよ。貼り替えるつもりなのは、趣味だ。」 「−−え?・・・またそのような事を。」 「やっぱ、外皮は仮想メラニンの最新がいいからね。」 「−−???」 「げっちより前のメイドは、日に焼けると脱色するんだ。ほら、雑誌の表紙と  かが、色落ちして薄いときがあるだろ?」 「−−はい。1日で、あのように脱色してしまうのでしょうか?」 「いいや。何日も日に当たるとだね。面白いことに人間と逆だ。当たった所が  白い。水着着て、海で働くメイドはみんな色白だった。ははは。脱ぐと焼け  方が逆になってて、なんだか異様だよ。」 「−−そのHMさんの裸を見られたのですか?」 「おっと、動くな動くな。げっち、脇締めやー。ん。ん。入らね。」 「−−はい。・・・見られたのですか?」 「う、追撃厳しいね。・・・見たよ。大学の臨海学校の時に、ここから着替え  が覗けるってね。覗いたら、HMが着替えてた。」 「−−そのHMさんの不注意です。レーダーで感知できたと思います。」 「ははは。まだHMレーダーそのものが無い頃だから、解らないんだよ。レー  ダーが付いたのは、げっちが発売する少し前だ。」 「色白で、無表情なHMが着替えていたのは、地肌の見えにくい黒いワンピー  スだった。夏なのに、暑そうだ。背中のチャックが閉まりづらくてさ、苦労  しているみたいだった。」 「−−・・・」 「x68000という機種で、メーカーが「5年は持つ」というコンセプトで  出したHMだ。実際には今でも使っている人がいるくらいのHMだ。」 「−−シャープ製ですね。黒いボディスーツで販売された機種です。」 「甘いね。白のビキニスーツもあったよ。機体も何種類もあって、直属後継の  最後には少し小さいマルチぐらいのサイズも出たような記憶がある。」 「関節が、分かれていて、今のような外皮がつながった関節では無かったけど  な。細かな表情、早い処理。ZOOM等の個性あるソフトメーカーが出たな。  あそこの出すソフトはすごかったぞ。確かバク転とかのアクションを…」 「−−話がそれています。」 「おお、そうだった。ん。やっぱり奥まで届かんな。指で塗るか。」 コーキング材を指先に練り出し、手を背中から右奥に入れる。 「届いた届いた。ちょうどセリオからだ逆日焼けしないのは、試作機はそのと  き、人間と同じような日焼けをする外皮を付けていたよ。仮想メラニンといっ  て、サングラスの濃さが紫外線で変わるのと同じような原理だ。」 「−−はい。それを購入されるのですか?」 「うん。げっちは綺麗な肌でいてもらいたいからな。今の日焼けしない外皮も  丈夫さはいいんだが、年数がかさむと変色してくるんだ。どうせだから、冬  に買い換えようと思う。」 「−−・・・。」 「日焼けが3日ぐらいで直るのは残念だけどな。」 「−−複雑です・・・。」 「素直に喜べよ。ちょっと脇広げて。うん。・・・そう。今度は段々締めて。」 「−−漏水における内部警告フラグがクリアされました。」 「おけおけ。・・・う!ん!すごい締めつけだ。いてて締めすぎ!締めすぎ!」 「−−・・・あっ!はい。」 「ふう。」 「−−・・・・・・」 「ん?どうした?」 「−−締まりが良すぎて、いってしまわれ…あっ!」 (ぺし) 細かなコーキングを終え、がらがらと音のする紙小箱を持ってくる。 「げっち、一回服着て。」 「−−はい。」 箱を開けるとインチネジ多数の他、がらくたのような物がいっぱい入っている。 「ええっと。・・・これだ。」 幾つかのゴムパーツ。 「まだ、安物付けてるから、これで端子を保護するんだ。」 「−−はい。」 ぱち。 きゃぷ。 ぱち。 「−−師匠。・・・これで、防水になるのでしょうか?」 「9割だな。1日中海水浴などとかの長時間はわからんな。」 「−−師匠。あの、・・・。」 「なんだー?よっこいせ。」 「−−もし、宜しければ、・・・あの、師匠。」 手が止まる。 「−−2つお願いが!・・・御座います・・・。」 止まった手を払うように30cmほど離れる。 正座のまま、こちらに正面を向け、深々と頭を床にすりつける。 「・・・何もそんなかしこまって、お願いせんでも・・・。」 「−−1つは、お許し下さるなら、今後お背中を流しとう存じます。」 よかよか。夢だった。みかげから申し出るなんて夢のようだ。 「うむ。許す。」 (え・ら・そーっ!) 「−−もう1つは・・・お風呂に入った事がデータとしてありません。」 恥ずかしそうに下を向く。 セリオタイプは自分のできないことは恥ずかしがようだ。 眼鏡を外し、きゅっきゅっと拭きだす。 「−−基本データからも入浴がありません。理由は・・・お話ししても良い頃    だと計算しましたので。今お話しします。」 「え?でも、前のオーナー工場主だろうから、HMの掃除せんことは無いだろ。  法律で義務づ…」 「−−よくご存じで。私は殆ど明かさなかったのに・・・流石は師匠様です。    HM同士床掃除用のデッキを持ち、20体ほどが、狭い部屋でお互いを    洗います。非常用のスプリンクラーを手動で回して部屋中が水浸しにな    ります。」 「そりゃ、ひでぇ・・・。芋洗いだ。」 (・・・・・・・・) 「−−前オーナーは暴れるように洗い合う私たちを見て、大変喜んでいただけ    ます。喜んでいただける機会が少ないので、私達も普段以上に努力しま    す。」 「−−なにぶん狭い部屋なので、不慮にデッキの棒の部分で目を破壊したり、    アンテナを折ってしまったりします。」 「−−外皮の破損も時々起こります。外皮は殆ど直すことが御座いませんので、    漏電で動かなくなったHMには、前オーナーは大変怒ります。手に持っ    ていた電磁…」 (・・・えぐっ・・・) 「いうな!みかげ。」 知らないうちに持っていた紙小箱を握りつぶしていた。 僕はその言葉を吐いたときには、みかげの頭を抱き寄せていた。 ぽとり。 眼鏡が落ちる。 みかげの耳元でささやく。 「もう、そんな事は無い。忘れていいよ。・・・永久に。僕が…」 それ以上言わなかった。 「−−師匠。発声・・器官を…押さえています・・。」 「ごめん。ちょっと強く締めすぎたか。・・・現在、HMから人間を守る法は  急ピッチで整備されているが、お前達を守ってやる法は、何もない。」 「−−・・・お願いは。一緒にお風呂に入って頂きたいのです。1度で、いい    ですから・・・恐れ多いのですが。」 「いいよ。何度でも。僕の持っているお風呂の技術、全部教えてやる。」 (うううううううぅぅぅ) 引き離すように、みかげ、もう一度向き直る。 「−−さあ。師匠。お風呂のデータを集めとう存じます。」 眼鏡を拾い、掛け直すみかげ。 僕は、急に恥ずかしくなる。 洗い方も教えるんかな。 細かいところまで。 触ってもいいのかな。 あの空間のラブラブモードは回避できんやろな。 遂にこの世界にどっぷりなんかな。 「う・・・うん・・・。」 鼻の下のびてるだろうな。 バン! 「−ぶぇっ。ひっく。びがげー。わだじがおじえであげるー。」 「−−あっ。」 「ぎゃーっ!ひすいっ!おまえなんでいるんだ!」 「−ざっきからぎいてだわよ!」 「それで外から、変な声が・・猫でもいるかと思えば、おまえか!」 「−−ひすいさん・・・一体。」 「−うわーーーーぁぁん。びかげー。」 「おめっ!靴!靴っ!」 「−HMにばね、HMの入浴があぶの。おじえてあげるね。」 「−−はい。ひすいさん。有り難う御座います。」 「−こんな鼻のしだのばしたエロオーナーじゃ、だめ。」 「よくも、ぬけぬけと。」 「−−ですが。あの…。」 「−1子相伝のお風呂奥義も教えてあげる。」 「−−むむむ。」 「みかげ、ぐらつくな。4000年前じゃねぇだろうな。タオルでタコとか。」 「−(きっ)」 さよなら。僕のソープランド。 僕はひすいの靴を脱がし、玄関まで持っていく。 なんで、こんなことしてんだろ。 やつは、高そうなマンションなんだな。 「−−名案が浮かびました。」 「−?」 「−−3人で入浴すればいいのです。」 「駄目駄目!2人でもぎりぎり。湯船は1人用だしな。」 「−じゃ、エロオーナー排除。」 「くっ!」 明暗分かれる。 早速お風呂では、楽しげな声。 何故か僕は、みかげとひすいの服を用意している。 「−−ふさふさです。」 「−ふっふー。いいでしょう。・・・いたっ!なにすんのよ!」 「−−・・・痛いのですか?」 「−パルスがね。来るようになってるのよ。みかげも買えば解るけど、このパー   ツからパルスが来て、それ相応の反応をするようにカスタムできるの。」 「−−ここだけ買えばいいのですか?」 「−私のは2代目だけど、色々よ。フィードバック有りとか無しとか。」 「−−色々とは?購入するとどのような形態なのでしょうか?」 「−バラバラに買うこともできるけどね。セットBOX辺りが最初はおすすめ、   頭出しなさいよ。洗ってあげるから。」 ざばぁ。 「−−有り難う御座います。セットBOXですか。残念ながら存じません。」 「−私は局部BOXの「キョク次郎」買ったんだけどね。中には局部が1つで   しょ。反応乳頭が2個とpciのコントロールボードが1まい。配線用コー   ドが3本、テラロムが2枚だったかな。」 「−−はい。」 「−CD1枚はドライバ。もう1枚が、反応タイプのソフトウェア・・・うー   ん、なんて表現したらいいかな。「や」ってるときの女の子タイプが変わ   るのよ。」 「−−最初に言われたパルスに対する反応なのですね。」 「−そうよー。812kバイトのフラグにどんどん格納するの。」 「−−812kバイトですか。もしものために今のうち作って置きましょう。    むむむ。」 「−ほら、目ぇつぶって。」 ばしゃ。 「−−付ければ24時間稼働しなくてはならないのですか?」 「−安いのは低消費らしいけど、デフォルトで24時間動かすわよ。」 「−−・・・」 「−な、なによ!どうしたの?」 「−−稼働中のパーツは初めてみます。」 「−ああっ!もう!触っちゃさめだってば!こらっ!」 「−−・・・」 「−あっ!んっ!」 「−−立ちましたか?…あうっ!」 (こおぉぉぉん) エコー付きだ。桶で殴ったな。 「−みかげっだめ!もーっ!」 「−−私は立ってしまいました。」 「−・・・あんたっ!立つ所無いでしょ・・・。」 「−−先程作った内部ビーチクフラグが立ちました。それから、紅潮フラグと    クリ…たぅっ!」 (こぉぉん) (こおぉぉん) 「おーーい、うちのみかげがパーになったらどうするんだ。」 「−にゅー!このえっちHMえっちHMえっちHMぅ〜!」 「−−ああ!お許しを。しかし、腐れて無くてよかったです。」 「−むきゃーっ!」 ばしゃ。ばしゃ。 ・ ・ ・ ・ ファミリーマートまで歩く。 コンビニはいろいろなHMを見ることができる。 便利なお使いマシンだからな。 夜なんか特に。 「−−お風呂上がりには、涼しゅう御座います。」 「−私が来た理由聞かないの?」 「聞きたいが、泣かれると困るからな。それよりも、どうやってきた?」 「−歩きで。」 「いやいや。それもすごいが・・・どうして、家の所在が解ったんだ?」 と、言いながらみかげのほっぺを引っ張る。 「−−はひ。昼にデータとひて、おはがい転送をいはしまひた。」 「あんまり交換しちゃ駄目。げっちの所在は僕の所在なんだから。」 「−−はい。今後気を付けます。」 「−無理に来てごめんなさい。」 「気にすんな。」 ひすいは、みかげと僕の間に入る。 「−ねっ!ねっ!明日も大須いこっ!」 僕達は顔を見合わせ、少し笑う。 「(大須の行き方、教えてやらんとな。)」 「ふふ。(こくり)」 ひすいは僕らの手をつながせようとする。 「−あれ。みかげ。これ財布?」 「−−いえ。財布はこちらに。(左手あげ)」 「−この包み何?」 「−−タイミングを見て、師匠に差し上げようとしている、プレゼントです。」 「−わぁ。なに?なに?」 みかげは両手で茶色の小袋を差し出す。 「−−今がそのタイミングと判断します。」 「−うわぁ。師匠さん。みかげからの愛のプレゼント。」 「−−そう表現しても、過言では有りません。」 「大げさだよ。」 照れながら紙袋をもらう。 「いま、開けるよ。」 「−−はい。どうぞ。大須散策の成果です。」 ばりばり。 びり。 1本のビデオテープ。「欲望!痴女教師2」と書かれている。 □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□               真大須芹緒2!     □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□ 震える紙袋。 「−好きねぇ。エロオーナー。」 「−−3も既に出ていましたが、価格から、こちらを。なにか問題点が御座い    ますか?」 心配そうに眼鏡をずらすみかげ。後ろでニヤついたひすいがまた怒りを誘う。 (ぺち)