思い出した! あれを忘れてた。早くやんなきゃ。 来て、2週間だ。今日やろう。 僕はそう思った。 「そんなとこで…ドリフの志村の話はここまでだ。あとはしらん。」 「−−はい。面白う御座いました。活用するときが有れば致します。」 「ははは、活用なんていつするんだ。ふぅ。・・今日は色んな事があったな。」 「−−はい。師匠・・・。」 「−−師匠・・・。」 「どうした。外に何か見えるか?」 よもやとは思うが、ラブラブモードだけは回避しなくてはならない。 僕もいつ誘惑に転んでしまうか解らない。 コガネの陸橋を上りながら、左手に「ホワイト餃子」の看板が窓を大きく横切る。 その向こう、飛行機がチカチカと、小さな点滅で近づいてくる。 「飛行機か。」 「−−いいえ、師匠。・・・今日は楽しかったと思います。」 「−−明日も大須に来るのですか?」 「起きた時間によりけりだな。」 右折、暫く走り、レジャックの交差点を抜ける。 「−−師匠。・・・師匠。」 「なんだなんだ。」 「−−師匠。こんなポンコツがこのように幸せでも良いのか疑問です。」 「またか。しかし、良く悩むやっちゃなー。」 帰り際に買った、すらっと茶を口に含む。 「−−師匠の言われんとする事は良く存じている次第です。メモリにはバック    アップも兼ねて2カ所に焼き付けてありますが、私が今、話そうとした    ことは…」 言葉を挟む。 「じゃ、今回はその件で別の話をするか。なぁ、みかげ、聞け。」 「−−はい。」 「僕が、将来年を重ねて、ついには結婚するだろう。そのときどうする?」 「−−どなたとですか?」 「いやいや、具体的な話でない。推測で良いよ。今はまだ相手もいない。が、  先々誰かと結婚するという仮定でな。」 「−−はい。では推測します。」 「どうだ?ん?」 「−−…その頃にはあるだろう局部パーツだけ残して、自爆します。」 「ぶーっ。」 「−−師匠!前!前!」 □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□      真大須芹緒2!    で・じ・げっち(猫耳付き) □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□ 中央郵便局をふらふらと通過する。 「−−危機一髪で御座いましたね。」 「ふぅ。今すぐ自爆する所だった。…っていうか、なに言ってんだ、げっち!  大体自爆なんかできんだろが!」 「−−師匠、赤です。赤。」 止まる。 「ふぅ。」 みかげに向き直る。 「話の腰が折れてしまったが、ま、げっちのその気持ちは嬉しいよ。しかし、  この環境が変化することは、高い可能性である話だ。当然、自爆も許さない  だろう。」 「−−では、頂いた私の名前から察するに投身・・・…あうっ。」 (ぺし) 「字ぃ違うやろ。」 「いやいや。自己破壊は許さないという意味だ。もう少し、可能性を考えてみ  てごらん。」 「−−はい。む…ふがっ。」 「むむむやめ。」 暫く走る。 「−−・・・やはり、お仕えするしか無いようです。お子息様は頂けるのでし    ょうか?」 「意味が広くて答えれん。げっちには子守を任す事もあるかと思うが、子供が  産まれるかどうかは神のみぞ知るというあたりだな。ちなみに生まれても、  げっちにその子は譲渡しないぞ。」 「−−3つ目のがご返答で御座います。残念です。」 「・・・末恐ろしいHMだ・・・まぁいい。では、今度はげっちの機体を含め  て考えてみよう。自分で後どれくらい働けるか。予想が付くか?」 「−−このままの性能では、もって、あと2,3年かと・・・。」 「うむ。この日進月歩なHMの世界だ。大体正解だ。じゃ、そのあとは?」 「−−そのあと・・・。」 「そうだ。そのあと。」 「−−・・・。」 「計算中か?」 「−−身売り、輪姦ののち、スクラップ。」 「はははははは。」 「−−??」 「マニュアルどうりで笑ってしまった。すまんすまん。ま、HM教育マニュア  ルにも載ってはいるが、君たちは自虐的に設計されている部分が強いんだ。  刹那的に最大の奉仕を計算し、長くても1,2年、それ以上の長いスパンの  計画行動は必要な情報が無い限りできないんだ。君達の世代のHMにあては  まる場合が多いけどな。特にセリオタイプ。」 「−−スタックを使用しています。暫くお待ちを。」 「−−よくわかりませんが、我々に10年スパンの演算は無駄かとは思います。」 「そうそう。そういう結果が出るんだよ。日進月歩だしな。仕様だ。」 「−−はい。」 「ただし、普通は「転売、部品流用の後、解体破棄」だ。一応つっこんでおこ  う。」 (ぺし) 「−−あうっ!・・・。」 「オーナーは選択して、それらを設定できる。仕様とはプログラム上の仕様と  いうことだ。」 「−−・・・。まだ、理解できません。」 「日々の技術進歩が大きいだけに、君が僕の元に来るまでに、この業界は君た  ちに長く働けるように変化している。セリオタイプは過去のHMのなかでも  既にそういった思想が織り込まれていたタイプだ。」 「−−と、言うことは…」 「その辺の先見の目は、来須川様々だね。君はほとんどのパーツを変えながら、  長く使えることができるんだよ。時代はそうなった。ま、10年先はわから  んが。」 「−−あの、あの、…。」 「全部話させぃ。今、センターでは、ROM、カリクROM、ムーバROM、  ヒューマンOS、カリクメモリとギャロップメモリをそのままに機体をガラッ  と変える事だって出きるサービスも開始している。」 車を止める。 「僕が、君のバックアップまでして、初期設定ロックの異常を嫌がったのは、  君の中にある、そのフラグを変更したかったからだ。プリファを検索してご  らん、奉仕期間目標設定が有るはずだ。「3年」と入っているはずだ。君た  ちの「ずっと」というのは3年を意味していることになる。」 「−−はい。・・・むむむ・・・。」 「−−・・む・」 「−−・む?・・」 「おーいおーい、みかげはーん、どうですかー?」 「−−有りました!表記は違いますが、計算すると3年です。」 僕はちょっと微笑む。 みかげは不安そうに僕を見つめる。 「じゃ、そこにヌル値をいれて。」 「−−え?」 「何度も言わすな。」 「−−2カ所有りますが。」 「両方に。」 「−−はい。書き換え完了しました。・・・ああ!師匠!私は、私は・・・。」 僕なりのプロポーズだ。 と、声に出したいのだけど、やっぱり駄目人間よろしく。頷くだけ。 「−−本当になんと表現して良いか判りません。言葉で表そうと検索すれど、    適当な文句が思い浮かびません。」 「−−ああ。どうすれば、お返しが出来るのでしょうか?なんとすれば、こ    の演算を回避出来るのでしょうか。私は、卑下しかでき…」 はしゃぎ出すのではと思えそうなみかげの言葉をとりあえず押さえ、 「・・・ずっと、僕に奉仕していただけますか?」 暫く演算をするみかげ。姿勢を立て直し、少しずれた眼鏡を指で整える。 「−−…はい。…永久に。」 ここで、泣かないのはやっぱりセリオタイプだな。いや、HM全般か。 僕たちは車を降り、すぐ側の家へ歩いて行く。 「−−師匠。アジトに帰宅するのでは無いのですか?」 「ああ、違う。ワソ君ちへ行くんだ。ここだ。」 「−−ワソ君?先日話されていた渡辺様のことですか?」 「そうそう。あ、お茶忘れた。これ持ってて。」」 玄関に上がる階段を上る。 「−−大きいお屋敷です。2階へ行くようですが。」 「電気屋だったか何だったかな。1階が事務所だからね。2階に玄関がある。」 「−−我々のアジトの6棟分より大きいです。」 「ははは。彼の部屋はアジトよりちょっと狭いよ。」 玄関を入る。静かに移動し、左奥へと廊下を歩く。 渡り廊下をまたいで、部屋へ。 「いよ!」 「−−いよとは、こんばんわの意味です。」 「あ、師匠さん、どもども。」 工具箱を置き、適当に座る。 「げっちもその辺に座りゃ。」 みかげは少し離れた場所にちょこんと正座する。 僕はお茶を飲みながら、辺りを見回す。 「師匠さん、表に車止めてから遅かったですね。」 「ん?ああ、ちょっと、いろいろとね。」 「−−師匠に「ヌルヌル」にしていただきました。 「ぶーーーっ!」 「うわ!もー!きったねー!なにすんですか!」 「うっ。・・・す、すまん。」 しまった。距離が空いててつっこめない! 「師匠さん!も、もう、パーツ買ってんすか〜うわぁ。携帯ではしばらく買わ  んって、言ってたのに!しかも人んちの前の車中で!」 「ち、違っ。設定変更!そ、変更!買ってないよな、げっち。」 「−−局部パーツは早く欲しゅうございま…あっ!」 ジャンピング(ぴし) 「証拠に、何なら見せたいとこだが、ははは、問題あるからね。」 「師匠さん〜。ホントにぃ?実は買ってて家にあるんじゃないの?」 「−−ええっ!師匠、本当ですか?」 「ええぃ!また余計なことを吹き込む。ワソ君、それよか、ほら、お前さんの  所の。どこが悪いって?」 そらす。歩き、ワソ君の所に寄るが、みかげは疑惑の眼差しで追う。 「(なんだか嫌な視線を感じる・・・)そいつはどこ?」 「あ、そうだった。なんかねー。左手がおかしいんです。」 ワソ君は立ち上がって、部屋の仕切のドアを動かす。 「うん、こっちにステーション買ってあるんで。いま、こっちにいる。」 「ぐわっ!蓋付きじゃー。また、いらん部分に金かけて。」 「だって、こっちの方が、良かったんだもん。」 「ポータブル充電器で良かったがね。」 「そんなこと無いよー(ぽち)」 ゥィィィィィ。 蓋が自動で開く。ポコポコポコとケーブルがはずれる音がする。 トテトテトテ。 ケースの半分ぐらいのHMが出てくる。 「−−あ!小さくて、可愛いHMさんですね。」 「うむ。HMSだ。機能を限定した主に室内用HMだな。」 「−−HM−12よりも小柄です。」 「あいつよか、2倍は性能がいいぞ。」 「−−そうですか。・・・どの部分の性能でしょう…あぅ!」 (ぺし) 「師匠さん、今、その子、変なことを・・・。」 「ははは。いやいや、たまにね。少し怪しいこと言う程度だよ。(汗)」 紫の髪の毛におかしなエプロン姿。 ゆっくりと歩きながら両手を広げ、渡辺君の両腿に抱きつく。 「・おにーちゃーん。にょ。」 「・お兄ちゃん、おはようでございましでしにゅ。」 「はいはい。あっち行こうね。」 「・はいでしー。にょ。」 とてとてとて。 この型の歩き方は、体重移動が少なく、心配を誘う。ある意味そっちの方がい いのかもしれない。ちょこんと小さなクッションに座る。 これはこれで、可愛い。問題は言葉か。 「・きょるーん9:00でし。にょ。」 「何入れた?」 「うーーん色々買ってきて入れた。遊んでみたけど、あんまし良くなかったん  だわぁ。。やめようと思ったけど、うまくはずせないんですよ。」 「同人ソフト買ってきて入れるからだ。もー。メンテぐらいしやーね。」 「・この人変なことするでしにゅー。」 「ああ!げっち!人様のHMになんて事すんだ!(ぺし)」 「−−あぅ!念のため、ご確認のお許しを頂いたのですが、裏切られました!    先程は、「いいでしにゅ」って申しておられました。」 「裏切るも何もあるかい!そんな所見られると思ってなかったんだ!」 立腹しているのか、みかげは口が波打っている。 「・いいきみでし。にょ。ざまみろでしにゅ!」 目の前で踊るワソ君のHM。 あまりの翻弄に顔が赤くなるみかげ。 ワソ君は注意する。 「おい、デジコ、踊るな。そこ座って。」 「・ふみゅ。お兄ちゃん、ごめんでし。にょ。」 トテトテトテ、ぎゅ。 オーナーの太股をつかむデジコ。 ワソ君、あんた、鬼畜だ。 みかげ、変な学習するな。と、祈る。 「・・・し、師匠さん。ちょっと。」 「どうした?」 「(どうです、うちのやつ。)」 「(あんなのデジコぢゃない!)」 「(・・・う、違いますよ、異常のことだってば。ほら、うちのデジコの左手、  少し震えているでしょう。)」 「(ん?ああ、ほんとだ。あんまり見たこと無い症状だ。)」 「(ほとんど支障がないから、どこ壊れてるか、言わないんですよ。)」 「(細部症状診断か。あれ、HM毎に命令違うから、マニュアルみんと解らな  んで。)」 「(マニュアルなんて、中古で買ったから有りませんよー。)」 「(メーカーから買っときゃ良かったのに。あれほど買えと言ったろう?)」 「(うーーん。…解ってますよ。でも、2万もするし、買えないよ!)」 そうだった。ワソ君は学生だ。正規マニュアルの購入は難しいだろう。 「(よし。じゃ、強制調査だ。分解して、腕の中見りゃなんか解るだろ。)」 「(それが・・・師匠さん。)」 「(???)」 「(もうちょっとこっちへ。)」 ワソ君とベランダに出る。夜だが、外は暖かい。 夏が近いのかもな。 みかげはデジコと話している。 「ふぅ。ここなら、聞こえないかな。」 「なんだ、ワソ君のHMもレーダー付けてないのか。」 「踏んづけて、折っちゃった。」 どういうことをすると頭のアンテナを踏むことになるのだろう? 「・・・そうか。踏んだか。」 頭は「踏むパターン」でいっぱいだ。 「で、そうも行かないんですよ。師匠さん、さっきの話。」 「ん?」 「テックジャイアンのおまけディスクの「鬼ごっこ」入れてから。」 「うっ!そ、それは。ネットでも話題になった・・・」 「うん、メンテのたんびに逃げるんですよ。結構パワー強くて。」 「ステーション買ったのはそのためか!」 「2万でマニュアルなら、4万でステーション買った方がいいかなーって。」 「ガクッ!なんだそりゃ。確かに無理強いすると華奢だから、壊れるかもしれ  んしな。ステーションならデフォルトの帰巣プログラムでドックインする。」 「でしょ、良いアイデアでしょ。」 「逆に電池切れを待つ方法もあるやろ。」 「あいつ、腰にコンセントプラグ持ってるんですよぅ。電気ドロして何日も動  いてるんすよ。」 じゃぁ、ステーション無駄じゃないか!と、思ったが、可哀想で言えない。 暫く考える。頭に「踏んだパターン」は無かった。 蓋付きで4万は安いとは思った。 「よし、うちのみかげを使おう。」 「え?」 「命令とかの根本的解決は、後日調べておくよ。図書館で。ワソ君もつき合え  よ。」 「う、うん。つきあうよ。」 「下の事務所にガムテープぐらい有るだろ。持ってこや。」 「な、何を・・・」 「それとなく、みかげに巻かせる。縛り上げだ!」 「え!?うーん。…うん。わかった。らち開かないし。」 ドアをあけ、みかげを呼ぶ。 「げっち、こっちおいで。」 「−−はい。…ねぇ、師匠様。ヌルヌルなのです。・・・ふきふきして・・・    いただけませんか?」 「・じょうできでし。にょ!これで、あやつのハートもがっしりでしにゅ!」 「・・・・う。」 ワソ君。ばれたか鬼畜。 「・・・・ぬ!」 僕。ばれたかエロHM。 「・良いこと教えてあげたでし。にょ!」 「−−師匠…ふきふき・・・もう、ヌルヌルで御座いますから。」 「むぅ!」 「−−ふきふき・・・」 「し、師匠さん。とても今憶えたとは・・・。あっ!」 (ぺし) ワソ君につっこんでおく。 「早く、取ってこい。」 「うん。」 「−−聞くと、既にデジコさんは、一線を越えた先輩だとのこと。ですから、    私にもかのようにお慈悲をいただきと…あっ!」 (びし) 「みかげ、ヌルヌル言うていかん!フキフキもだめ!」 眼鏡を下にずらし、落ち込むみかげ。 「−−そうで御座いますよね。「あの」パーツも無いボロに、ふきふきなんて    ・・・出きる訳が無いと。当たり前で御座います。」 ふきふき・・・さっきのは、だいぶ芯にこたえた。転びそうだ。 「いや、げっち、そう意味ではない。あ、あの。すす、好…」 セリオタイプ機能発揮。得意の意を汲む性能抜群。しかし、今、言えない事を 理解しても困るときがある。言えないことは言えないからごまかせるのだ。 「−−はい。もしその表現をするのでしたら、私も「好き」で御座います。」 眼鏡をずらしたまま一歩寄る。 「−−このような場合は・・・既に検索済です・・・。」 ゆっくりと距離が詰まる。 下がるが、僕の背にはベランダ。そらさなくては、逃げられない。 「みかげ!後ろ!後ろ!」 と言うが、一時的な耳の故障らしい。ラブラブモード、大気圏に突入だ。 上目遣いにこっちを見るみかげ。 何故目をつぶるみかげ!耐えろ自分! 何故「んー」をするみかげ!そんないちご色の蔵書、家には無いはずだ! 決壊寸前。 ふらふらと唇を近づける僕。いいじゃないか、そのぐらい。もうやれ! くんか。 くんかくんか。 くんか。 思い出した!またも忘れていた。 「−−あっ!」 両肩をぐっとつかむ。みかげは眉をハの字にして、その強さに身を任す。 「げっち、風呂にはいんなきゃ!」 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−fin