「−ふぇー。いっぱいあるわね。」 「−−少々狭い店内なのに、机や椅子が必要以上に存在します。」 「そういう店だ。ほら、販売はこれらカード関係のものばかりだろう?だから、  空いたスペースをお客さんに提供しているのさ。」 「−ふーん。あの人たち、なにやってんの?」 「しーっ。カードゲームだよ。こうした場を設けることで、遊んで貰って、カー  ドを更に買って貰うんだ。」 「−−販売と購入成果確認場所が相乗効果をもたらすのですね。」 「よう、師匠君では無いか。」 「あ、店長。ども。今日、HM連れて来ちゃってるけどいい?」 「ああ、いいよ。ここはそんな取り決めないからね。」 「−(この人が店長?)」 「(そう。恰幅がいい人やろ?気前は見た目以上だ。)あ、店長、」 「ん?なんだい?お?2人連れているのか。」 「うん、こっちのがひすい。あっちのがみかげ。あっちがこないだ買ったHM。」 「そうか。・・・あっちの娘はかわいいな。」 みかげは眼鏡に手をそえて、立ち並ぶカードのパック箱をつらづらと見ている。 「−(むっきー!なんで、あんな古い機体がかわいいのよ!)」 「(しーっ。いきなり負けんな!1:0でみかげが先制点を取ったぐらいにし   とけ。)」 「そっちのは、・・・ちょっとな。コギャルみたいだし。」 2:0だ。ホームラン2発打たれて宜しくひすいピッチャーピンチ。 「あははははははは。」(みかげを除く一同笑う) ひすいも一緒に笑っている。体裁プログラムが良くできてるなぁ。 「−ははは・は・(く〜〜〜〜〜〜〜)」 「(まぁまぁ)」 笑い泣きだ。文章ではよく使われるが、本物は初めてみた。 「お、そっちのHM、涙ながしてんぞ。電池切れか?」 「ははは。そんな、あ、でも、今日結構歩いたから、原因はそうかも。」 ひすいは店長に飛びかかりそうだ。 店長はレジを打ちに歩いていく。 「−(げ・ん・い・ん・は・あんただぁ!)」 「(おいおい、落ち付けって。泣いたり怒ったり、忙しいやっちゃなー。)」 「−−はい。それを下さい。」 「おお、こんなものまだあったか。いいよ。100円で売ってあげるよ。もう  古いからね。最後だし。」 「−(みかげだわ。)」 「うむ。何を買ったんだ?」 僕らはみかげの前へ行く。みかげが邪魔で見えなかった。 ああ、袋に入れてしまった。しかし、店長はこう付け足す。 「しかし、良く見つけたね。「過疎レンジャー」」 「過疎レンジャー・・・」 「−なに?なに?かそれんぢゃーってなに?」 □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□      真大須芹緒2!    CCみかげ □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□ この時間ぐらいから常連がぼちぼち来るだろうか。 カードバトルを行う長机の所に座る。 さっきまでギャザをやってたお客さんも帰る雰囲気だ。 「まぁ、セリオタイプを愛するなら過疎レンジャーのひとつやふたつは耳にす  るだろう。」 「−へぇ。どんなの?」 「−−大変嬉しゅう御座います。」 「げっち、せっかく買ったんだから、ここで、開けなされ。」 「−−はい。ドキドキします。」 「まぁ、品切れで次のパックは買えないから、ここで確認しても意味は無いが、  基本スタンスとはこういうものだと言うことでな。」 「−−はい。」 封を開けようとするみかげ。 「待ったげっち!・・・そのまま手で開けてはいかん。」 「−−??」 「カードと一緒に袋も取っておくのだよ。1袋で良いが、丁寧に開けて取って  置いた方がいい。何袋もあればいいが、この場合これ1袋しかないから、手  で開けると切り口がびらびらになってしまうだろう?」 「−−はい。・・・びらびら。」 「モードチェンジ禁止だぞ、げっち。」 さっきの道具箱からハサミを取り出す。 みかげから袋を奪い、袋の下の方を綺麗に切ってやる。 「−へー。」 「−−あ、ありがとうございます。大変嬉しゅう御座います!」 「この袋も取って置くんだぞ。」 袋には10枚のカードが入っていて、みかげはゆっくりとカードを眺める。 ひすいに向き直り、 「えっと、過疎レンジャーの話だったな?」 「−うん。」 「長いが、なるべく簡単に話そう。」 「−してして。長くてもいい。」 「コホン、96、7年に戦隊物が新たに放映されたんだ。タイトルはは「故郷  戦隊過疎レンジャー」。田舎を中心に森や川辺を舞台とした戦隊物だった。確  かロケ地は…えっと、」 「−−岐阜の高山です。」 カードを見ながら答えるみかげ。 「そうそう、岐阜の高山温泉街がロケ地だった。過疎ブラックが毎週食べてい  たラーメンはあっちでは有名なラーメンだ。」 「−ふんふん。」 「原田篤、高岩成二、坂口望二香、敵側に宮村優子、石塚信之、ホンジャマカ  等を起用し、結構豪華キャストだった。スポンサーも来須川ホビー事業部、  ポッカ、トミーなどが付いてたなぁ。」 「過疎レッドほか5人で、戦い、最後に合体銃「過疎バズーカ」後半には超巨  大合体ロボも出た。流れ的には従来のサンライズ戦隊物を受け継いでいる。」 「−それでそれで?」 「全編4クール特番も含め55話の筈だったのだが、3クールをすぎたあたり  少しで、放映打ち切りとなったんだ。来須川が降りたのが直接的な原因だ。  もっとも降りるのは無理ないけどな。平均でも7%、終了直前は3%の視聴  率だったらしいからな。」 「監督に大森一樹、撮影には川北紘一、加藤雄大とか使って、かなり気合いの  入った内容だった。今見ると1話1話、通はうなる作品だ。子供達にも人気  は有ったかと思うのだが、如何せん過去最高の必要費用とスポンサー降りで  は続けられなかったんだろう。」 「故郷の過疎化を守ると言う内容で、面白い筋書きだったし、ロボを出すと自  然を壊してしまう葛藤が大人的だったな。39わまでロボを出さなかった。  それをトミーが怒った、来栖川降りた、と言う話もある。」 「−あのさ・…」 「しかも核燃料工場が核融合を起こしてしまう話は後で実話になってしまった  から、2度と放映せず。セブン同じく12話が欠番だ。他にも社会的風刺が  織り込まれていて、なかなか良かったと思う。」 「あの後、過疎レンジャーRとして、ビデオ版も出たぐらいだ。大きいお友達  には、今でも人気が有るだろう。確か、Rが本当に放送されていると仮定し  て、15話だか16話あたりを収録したような作りになっている。制作は違  うチームだが、かなりの力作だった。」 「−あの、あの、あの、それが何で、みかげと関係あるのさ?」 「うむ、話し込んでしまった。じつは、セリオは何故かデフォルトでこの番組  が大好きなのだ。発売後に騒動があってな。」 「−騒動って?」 「来須川がスポンサーだったから何か洒落で細工をしたのかも、という噂も有っ  たのだが違った。全国で、稼働した10台のセリオ試作機の1台が異常なファ  ンだったのだ。これも本でドキュメントとして推測されていただけだけどね。  裏付けは有るから、かなり有力だ。」 「−ううううぅ。よくわかんない。・・・騒動。」 僕は一度立って、黄色い缶の、レモンが100個分入っているやつを1本買っ て来る。そのジュースを一口飲み、 「まぁまぁ、でな、騒動というのは、セリオのROMにそのデータが焼かれて  いるんだ。マニアックな情報と、1話、5話、18話。合わせて約100G。  発売開始1万台が過疎レンジャーファンとして散ったわけだ。その後に発売  のセリオももちろん常に過疎レンジャーファンだった。」 「−あやー。」 「それに著作権問題が起きたり、お使いを忘れて展示放送を見入るとか。再放  送はなんと、20%をマークするという事件も起こった。当然セリオが見て  るからだ。こうなると問題だ。どうなってるんだ。セリオは完璧ではないん  かとね。」 「−面白いと思うけど。」 「そうだな。性格付け的には良いカラーだ。」 みかげをちらと見る。次のカードを見ている。カードに穴開くぞ。 「中にはライバル系列で作業するセリオだっているだろうし、過疎レンジャー  は少し風刺的だから、政治家的な大人には煙たがれるよ。消してくれ、とい  う依頼が来て本体を回収するのだが、どこを見てもそのような情報は出てこ  ないんだ。セリオ全台回収騒ぎまで出たよ。」 「−で?で、どーなったのよ!回収?!」 「いやいや、慌てんな。げっち、過疎レンジャー主題歌。」 「−−♪カッソーカッソーもーりがぁーよんでーいーるぅ。♪カッソーカッソー    やぁまをーかけぬーけーてぇ。♪カッソーカッ…」 「よし、やめ。」 「−みかげ、犬みたい。」 「−−お褒めいただき光栄です。犬の比喩は忠誠の表れ。」 「この通り、今も健在だ。リコールは少しあったが。結局「騒ぎ」だけだった  という事かな。ちなみに1、5、18話は外部端末にムービー出せるぞ。ま、  解析が進んで、今はそれらのデータもどこにあるか解ってるけどな。」 「−すごーい。」 「来須川の後継機には、このとき使われたこの隠蔽方式、要するにセリオが考  えた暗号が採用されているよ。ちょっと変更はされていて、過疎レンジャー  も含まれて無いけどな。」 「−ふうん。」 「−−私たちもパッケージ化された解読ソフトしか持っていません。もしオー    ナーに説明しようとも、説明不可能です。」 「7研も驚いただろうな。」 「−みかげ、過疎レンジャーエンディング。」 「−−♪あーつくもぉえる♪たーいよーぅをー。♪きーみはーみたーこー…」 「−みかげ、番組の冒頭。」 「−−過疎化が進むこの温泉街に5つの勇気があった!鳥や、魚、森や…」 「−みかげ、次週予告。」 「−−みんな、冬休みはどうだった?次週の過疎レンジャー19話は、魚屋の…」 (ぺし) (ぺし) 「遊ぶなっ!みかげも乗るな。」 (ぷー) (しゅん) 「−−あっ!スペシャルカードです!」 「最後の1袋に入っているとは、幸運だな。カード全部見せてみー。」 「−−はい。」 ・過疎グリーン変身前HP40:瀬戸大吾役 高岩成二 ・過疎ブルーHP160:友釣りリボンフラッシュ:AT30 ・過疎ゴーグル:夜間犯罪透視アイテム:相手のカード1枚を見る ・怪人ダーム変身前HP320:せきとめ放流アタック:放流サイレンバースト  AT80、割り振り可能:AT10、全員:水を止め、村民を困らせる ・・・・・・・ 「−−裏には乗り物の絵とさいころ、じゃんけん絵柄が付いていて、遊技の多    様性を読みとれます。大変配慮されたカード群です。」 「−・・・・。」 「・・・・そうか?」 ・・・・・・・ ・SPカード:鏡面連鎖模様加工  中神長官(高山中央商店街組合長):中神翔三郎役 鹿賀丈史 「(う、はずれSPCだ・・・・)」 「−−ああ!長官です。勇ましゅう御座います。」 「−げっち、親父趣味ぃ〜??」 「−−いえ、長官はそのような方ではありません!私が触れることも許されな    い、高貴なお方です。」 「んなん、瀬戸物屋の店主だろが。」 「−−それは仮の姿です。本当は類い希に見る優秀な司令官なのです!」 「−げっちがオーバーヒートしそー。ふふふ。」 「−−からかってはいけません。私は至って真面目に説明しているのです。」 そういって、真っ赤な顔を眼鏡で隠しなおす。 それからぷいっとよそを向く。 「おいおい、番組の中の話だぞ。」 「−−はい。承知しています。あれは多少脚色された番組ではあります。しか    し、故郷戦隊自体の存在が否定された訳ではありません。」 「−みかげ・・・」 あきれるひすい。 「−−高山でなくとも全世界規模で考えると、実在の可能性は高う御座います。」 「サンタさんみたいだな。」 「−−そのような、子供のおとぎ話と混同させないで下さい。」 同じだ。それを「信じてる」と言うんだ。 やっぱり問題あるかも。 「さて、せっかく来たんだから、カードを買っていこう。ひすいの分もおごっ  てあげるから、君たち2ずつぐらい選んできなさい。」 「−−はい。」 「−はぁい。」 席を立って、カウンターへ寄る。 店長を追いかけるように、質問する。 「あのさー、店長、最近なんか出てる?」 「うん?そーだなー。あっ!HMコレクションpart2が出てるよ。まだ、  並べてないけど、奥から持ってきてあげるよ。どうだ?」 「あ、箱買いしたいから、1箱取って置いて。後日買いに来ます。今日はそれ、  2パックぐらい買っていくよ。」 「いいよ。じゃ、持ってこよう。」 「−あ、私もそれ買う。」 箱が来る。ぺりぺりと箱を開ける。 ***HM全鑑 HMコレクションpart2 スナップ編*** 「おお。パッケージ絵はコモドールメイド64だ。古!」 「この箱用のスペシャルは沢山買ってくれたお客に回すよ。」 「2パック買ってじゃ駄目?」 「どうせ、後で1箱買うのにも同じSP付いてくるんだから。・・・駄目。」 「そか。じゃ、これとこれ。」 「はい、760円。税込みだよ。」 「はい。10000円。連中と予約の分も払っておくよ。」 「はいよ。」 僕は、1箱予約と、HMコレp2トレカを2パック ひすいは、HMコレp2トレカを1パックとガクトのトレカ1パック。 店の外。 外で、カードの封を開けながら歩く。 「−ねーねー、みて!SPでソニーのHMバイオが出たよ!」 「みかげは何買ったんだ?」 「−(ぷう!)」 「−−私はコレを・・・」 「大岡越前・遠山の金さん・・・歴代コレクション2000・・・」 「−ねぇ、きいてよー!」 「また、なんでこんな物を・・・そっちは何だ。」 「−−こちらは・・・はい。」 「げげ、カードキャプターじゃねぇか。」 「−−こちらのCCSパックは選び損じてしまいました。性行為シーンが1    枚も入ってないのを選んでしまいま…あっ! (ぺし) 「はいっとらんわ!」 「−はいはい。残念でしたね。だからぁ、こっちのカード!ほらほら。」 「−−はい、非常に残念です。ともちゃんがケロちゃんに愛撫されているシー    ンぐらい入っているか…あうっ」 (ぺし) ひすいからも(ぺし)。 HMは他のHMに手ぇ出さんのじゃなかったか?こういうのはOKなのか? 「−−せめて、さくらのはだランでも…はうっ」 (ぺし) ひすいははだランを知らないらしい。つっこみはなかった。 「さくらエロやめ。」 「−−ですが、アジトの蔵書の中では、1つとて、そのようなシーンが無かっ    たことはありません。このパックはおかしいです。誰が、着衣バストアッ    プショットなどを喜びましょうか?」 「−(不審な目つきで師匠をにらむ)ふーーん。」 「なんだよ。変な目で見るなよ。」 「−ふふふ。・・・・・・エロオーナー。」 「な!何!ひすい!」 「−じゃ、帰るわ、エロオーナー。また遊んでね、エロオーナー。」 「−−ひすいさん。またお会いしましょう。」 「−バイバイみかげ。さよならエロオーナー!」 走るひすい。HM社会でも駄目人間烙印か・・・。 僕らしいといえば僕らしいかもな。 「−−落ち込むことは御座いません、師匠。次回は店員様に確認の上、それら    しいショットが入った物を引き当てる所存でございま…あうっ!」 (ぴし) 眼鏡がずれる。 みかげは眼鏡を直しながら、すぐ脇に寄る。 両手を腰の下に重ねるように本を持ち、肩が触れんばかりで顔をのぞき込む。 「−−いかがされたのでしょうか?先ほどからつっこみが多う御座います。」 「当たり前だ。」 「−−エロオーナーという言葉がそんなにお怒りを買っているのでしょうか?」 「それもある。」 「・・・。」 「−−・・・。」 みかげは少し歩みを早め、僕より2・3歩前に出る。 そうして振り向きながら恥ずかしげに言う。 「−−もっとエロオーナーになって欲しゅう御座います。」 日は沈んだが、みかげの赤い顔はハッキリと判った。 もじもじしてみかげのフューチャービーの紙袋がくしゃっとなる。 僕の、肝心な時に適当な返し文句が浮かばないスキルは255のようだ。 シャッターの音。少なくなる通行人。1件だけ、そばのCOCO壱番の看板が チカチカと眩しい。 「か、・・・かえろっか。」 今日の大須はここまでにして、帰ることにした。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−fin