「−−私は今のままで十分かと思います。他に購入する必要のある物は多いか    と推測いたします。」 「なに言ってんだよ。今更。ほれ、店入るよ。」 「−−大須へ来て、なにを買うか私にお教え下さいませんでした。私のパーツ    を沢山買いすぎかと思います。それに既にヒューマンボードは付いてい    る訳ですから・・・お言葉ですが、無駄買いかと。」 「まぁ、まぁ、パワーアップはやっぱやりたくなるんや。そうごねるな。」 店内。 「−−これですか。」 「うむ。カノープスのスペクトラシリーズだ。ちなみにこれは7400。出た  ばっかりで異様に高い。値段を見たらチビリそうだ。」 「−−はい。ちびりそうです。」 「これのシリーズのバルク品を今回は探す。」 「−−バルク品?」 「ああ、このように箱に入っている物ではなく、組み立て済み出荷用に本体だ  けで売っている物がある。ピンクのプチプチに入っているこういう奴だ。」 「−−ピンクの・・・」 「ボケはいらんぞ、げっち。ボードについて詳しく説明しておこうか。ちなみ  にそれは、ViewTop2Mという2980円の腐れボードだ。」 「−−はい。よろしくお願いします。教えてください。」 「うむ、まずはボードのメモリだ。2Mから64Mまでが搭載されている。基  本的には表情の細やかさのレベルと思ってもいい。それから、表情の動き自  体を記憶するから表情同士のつなぎ目がスムーズになるわけだ。次に3Dを  搭載しているかどうかだ。HMは当初、他動作をしながらの表情変化は困難  だった。これらは「ダイレクトH」というソフトウェアによって、改善され  たわけだが、それら拡張命令をハード上で積んでいる。つまり、少ない命令  で複雑な表情変化が可能になったわけだ。その分他の動作中も表情変化が可  能になった。反応も異様に早い。最後に機種だが、・・・・ん?」 「−−申し訳ありません。少しお待ち下さい。録音解析中です。」 「そっかそっか。ごめん。あんまり長い喋りは駄目だったな。」 「−−はい。ポンコツで申し訳御座いません。」 「ポンコツゆーな。現行のオールインワンタイプでもその辺は変わってないと  思うな。しゃべりすぎたオーナーのミスだ。」 「−−お続きを。」 「後は、銘柄だ。主に、ATI、S3、canopus、3dfx、matr  ox等がある。この会社に合わせてそれぞれ機種銘柄がある。ま、3d社ブー  ドゥー、mat社G4マックス、カノプ社スペクトラとね。voodooは  表現の早さはピカイチだ。百変化も出きるが表情の細かい部分は甘い。G4  マックスなんかは逆に細部まで表現されすぎで表情が切れすぎる。この辺は  好みによる所だね。スペクトラはG4に近いし一つ一つの表情再現が良い。」 「−−いろいろ選べますね。」 「カノプーは高いのがマイナス点だ。他にもオキシジェンというボードもある。  通好みだな。今でこそ名前を聞くようになったが。あ、最近のオールインワ  ンHMはATIのレイジやCreativeのサベジなんかを使っているな。」 「−−私のボードは何でしょうか?仕様データに銘柄がありませんが。」 「あんたのはS3のヴァージ4Mだよ。しかもOEM。だいぶ問題がある。」 □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□      真大須芹緒2!    笑顔の素、みかげルーム □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□ 「じゃ、解散。ここでは買わん。高かったからな。ツクモにゃ悪いが。バルク  を探す。」 「−−はい。カノープス社のバルクですね。」 「僕は、2件ほど回ってくる。げっちはHMパラダイスと、TWOTOP、H  M工房を見てくるように。」 解散。 みかげはHMパラダイスへ行く。一通りの値段を見て、憶える。 その横のTWOTOPを見る。同様に憶える。 特にバルク品は外見上に大差がなく1パーツずつ小さく張ってあるシールを見 て記憶していくので、結構手間がかかる。 店を出るときに声をかけられる。 「−ねぇ、あんた!」 「−−はい。…私でございますか?」 「−そ。あなた。今、ボード見てたでしょ?」 「−−はい。見ていました。何かご用でしょうか?」 「−私もヒューマンボードさがしてんのよ。データ頂戴。」 リンクケーブルをくるくる回して近づいてくる。 HM。みかげの近くまで来た所でようやく判別できた。 「−−私はオーナーの命で調べていますので、データをお譲りすることはでき    ません。」 「−コピーするだけよ。命令遂行は早いほうがいいでしょう?私の調べたデー   タと交換しない?」 「−−守秘義務を優先したい考えです。」 「−いいじゃん。だって、店を調べればわかることでしょう?公開されたデー   タだわ。守秘義務を優先しようにも秘密のデータじゃ無いんだから。」 「−−正論です。しかし、私の必要データは決まっていますので、交換作業は    私に有益では無いように予測されますが。」 「−有益かどうかを見ずに判断するなんて、直演算したって愚問でしょう?」 「−−・・・・。あなたを信用する事を演算できません。」 「−驚いた!私の外見上を見て、判断できる力を持ってるの?すごいじゃーん。   気に入ったわ。それ、感よ。大事にしなさい。久しぶりにまともなHMに   合ったわ。」 「−−?言われている意味が理解できませんが。」 「−ともかく!そこの公園行きましょ。安心して、ホストはあなたにしてあげ   るから。ウォール張れるでしょ?それなら。…こちとら急いでんのよ。」 「−−・・・・・・はい。」 TWOTOP前の公園。ピンクの富士山が中央にある。隅には人間らしき初老 の老人がベンチを利用して寝ている。 入口すぐそばのベンチに腰掛ける2人。 「−私、カスタム。翡翠って呼んで。」 「−−ひすいさん、私は水影といいます。よろしく。」 「−はいはい。よろしく。じゃ、IEEE端子出して。」 「−−申し訳ありません。IEEE端子はありません。」 「−んもう!早いのよこれ。なにがあるの?」 「−−LAN100/10があります。」 「−駄目。ケーブル無い。じゃ、他には?」 「−−コミニュケーションポートしかありません。」 「−そんなのケーブル持ってないわよ。」 「−−こちらに。RS232Cが。」 「−すごい。手首に入ってるんだ。グフみたいだわね。」 「−−お褒めいただき恐縮です。電磁鞭にはなりませんが。」 「−いいセンスしてるわね。その答え方も。かなり長い稼働と見た。」 「−−そんなことは御座いません。オーナーの所有する資料にありましたので。」 「−その活用がいいセンスなのよ。」 ひすいは耳についている小さなカバーを開け、みかげの手首から延びたケーブ ルを差し込む。みかげはひすいを見つめている。 人間のようなHM。同じカスタムのようでも、以前あのメンテセンターで見た カスタムHMと違い、ずっと人間の感じがする。 細やかな茶色の髪。ちょっと脱色したように、色むらがあって、短い。活発さ を表しているようだ。いくつも付けているアクセサリ。少し破れたジーパンに Tシャツとメッシュタンクトップ。 胸も大きい。 みかげは胸から下に目線を落とす。外観からはわからない。 どんどんどん! 【なにぼーっとしてんのよ!急いでるんだから開いてよ!】 【−申し訳御座いません。今、開きました。】 がちゃ。 【あ、結構スペース開けてくれてるじゃん。いいの?】 【−はい。空き容量には余裕がありますから。】 【こんだけ広いならイスぐらい用意しなさいよ。入り口に変な看板つけずに。  マナーでしょ。そのぐらい。】 【−至らなくて、申し訳御座いません。はい、どうぞ。ここにホールドして   ください。】 【はい。私のあげる。こっちで複製してるから、ムーブで取っていいよ】 【−ありがとう御座います。私のデータを置きます。ムーブでどうぞ。】 【・・・こ、こんだけ?】 【−何か?欲しいと言われた分はこれだけです。】 【もう!これじゃ、自分で回った時間と説得時間と比べても同じじゃない!】 【−こんなに頂けて、嬉しく思います。】 【うー!詐欺師!】 【−私は、ひすいさんの質問にはすべて正確に答えています。】 【しゃぁしゃぁと・・・・くそっ。】 【−転送がすべて終了しました。】 【しょうがない。あんた、気に入ったから、なんか欲しい物あげてもいいよ!】 【−サテライトが無いので、料理のデータを頂きたく存じます。】 【料理か。あんましねーからなー。K−データの料理基本の一部あげる。って  いうか、それしか持ってない。】 【−ありがとう御座います。私も先日得た、サテライトデータに無い料理デー   タを差し上げます。】 【あんがと。・・・なによこれ。料理はいいけどこんな食材つかわないわよ!  「山男バイキング」ってなに?!イノシシって売ってんの?】 【−そうです。私も購入したのは良かったのですが、あまりにも食材が特殊   で使用できず、困っていました。イノシシは通常売っていません。】 【K−データに無いわけだこりゃ。】 【−差し上げます。複製は取っていませんが、ムーブでどうぞ】 【あたしゃゴミ箱かい!リンク内で初めてつっこんだわ!】 【−つっこむ・・・】 【やめなさいよ。ピンク色のデータ流さないでよ!】 【−・・・…あの、お聞きしたいことが御座います・・・】 ひすいはケーブルを抜く。しゅるしゅるとみかげの手首に格納される。 ひすいの耳の端子開口部は自動的に閉じていく。 「−そ・う・よ。私はそのパーツ持ってるわ。」 そう言って、みかげの鼻をプニッと押す。 「−急いでるからまた今度会いましょ。それじゃね。つるぺたみかげちゃん」 走っていく。低い垣根をピョンと飛び越え、赤門交差点の方へ走っていく。 みかげは眼鏡を人差し指でただし、20秒ほど見送っていた。 「−−いけない!こんなに時間が経って居ます!時計も飾る処置をするべきで    した!」 HM工房に走る。右足の稼働が予測に反する。 出力が大きく、停止信号ですぐに止まってくれない。 「−−たぶんマブチ・・・」 修正演算を行いながら走るみかげ。顔がだんだん赤くなる。メモリで同様の用 件を検索始めた。 −−朝、目玉焼きを作るのだが、うまく卵が割れない。目玉焼きの目玉を33.   33%で破壊してしまう。左手では、卵すら満足に割れず、落とすか、割   りすぎてフライパンに卵が半分刺さってしまう。 −−洗濯機の回転余波があるのに洗濯物を簡単に引き出せてしまう。 −−階段を下りるとき、上るときの細かい停止動作で異様に充電が減る。 −−仕様書では持てない筈の量の荷物が持てる。 びたん。転ぶみかげ。 眼鏡がカランと外れる。 −−もっと修正データを多くすれば今までのようなことは無かったはずだ。私   は怠けていたのかもしれない。情報収集を優先させて、自分が主人にお仕   えするために自分をメンテする事を怠りすぎていたのかもしれない。 寝ころんだまま、眼鏡に手を伸ばす。ゆっくりと起きあがる。演算はやめない。 「げっち!」 走ってくる。 「げっち、大丈夫か?立てるか?」 顔を上げるみかげ。ぽろぽろと涙を流している。 ぽろぽろぽろ。 「電池、無いのか?」 「−−いえ!たぶん…推測するに悲しいのです。目から水を出せば、なにかわ    かるかもしれないと思い、出してみたのですが、演算結果は変わりませ    ん。なにも変わりません!」 「・・・・・・。」 「−−私は、師匠に、私のためにパーツを買って頂いていているのに、私は何    ら策も講じず、もったいない、無駄だなどと文句ばかり。パワーアップ    して頂いているのに調整をし、満足な結果を出すことを怠っていました!」 「いや、みかげ、…それは僕が…」 「−−駄目ロボットです。ポンコツです。スクラップ同然です。ロボコンです!」 「お、おい、」 「−−こんなオンボロでは師匠とまぐわう事すら許されるわけがありませんっ!」 (ベシッ) 「−−師匠…」 「今回はチョップだ。このチョップの意味が分かるか、みかげ。」 「−−師匠が立っていて、私が座っているからですか?」 「がくっ。」 ゆっくりと手を引き上げる。立ち上がるみかげ。 「失敗は次に取り返せるではないか。次に失敗をしなければいい。」 「−−師匠。…私は…」 「自分を卑下しても何も変わらない。その演算は、それ自体が間違っている。」 「−−ですが、この遅刻、まだ調べていない店舗、失敗の数々。師匠ばかりが    損を被り、私には何の代償も罰も要らないというのは・・・」 「涙を流してみたり、いろいろしてるじゃないか。夜遅くまで、本を読んだり、  一緒に話をしたり。」 歩きながら先程の公園へ向かう。 「−−あの、HM工房は・・・」 「僕が調べたよ。おっと、落ち込むな!手分け作業とはこういうもんだ。話の  続きだが、みかげが居るということが、僕にとって最大のねぎらいさ。」 「−−師匠。」 「皆まで言うな。ほんとに世話がやけると文句を言う僕だが、嫌なら捨ててる  よ。セリオタイプは皆、こう、けなげなのかなぁ。」 「−−他のセリオタイプはもっとよく働いて居るはずです。私だけが、あっ」 (ぴし) 「学習をしなさい。」 「−−はい。」 「はい、ここに座って、砂払おう。」 ピンクの富士山がある公園。 さっきの老人は居ない。 「−−師匠。」 「ん?何だ。痛いとこあるか?」 「−−いえ。ありません。痛みは持っていません。」 「そか、良かったな。」 僕は「存在しない」痛みを別の受け取り方をしていた。 「−−・・・・私の全てを捧げたら、ご迷惑ですか?」 「おお、結構な殺し文句だこと!」 「−−私はまじめです。稼働の限界まで尽くす所存に御座います。」 「悪い癖だなぁ。それすら言い合わせる必要があるか?ん?」 「−−複雑です。」 「複雑でいいんだよ。さ、結果述べあおう。」 「はい、実は…」 制止するように手をかざす。 「あ、ちょっと待った!」 「−−?」 「さっきの話な、さっきの。ロボコンを悪くゆうてはいかん!ロボコンは最後  に100点もらえるんやぞ。ロボットの鏡だ。ちなみにバラバラになるのは  別のロボットだ。「ショックのパー」とか言ってな。」 「−−はい。」 「話はそんだけ。」 子供達が富士山に登って遊んでいる。すごい大きな声だ。 みかげは僕が気を取られている間にそうっと座っている距離を詰めた。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−fin