万松寺駐車場。僕は1つ考えがあった。 「−−このお金を私に?」 「うむ。週2千円と3ヶ月1万円の合わせて、1万2千円だ。」 「−−先日のお話の内容ですね。先に頂いても宜しいのですか?」 「かまわんさ、持っていても使ってしまうがね。」 「−−お金だけに「使ってしまうがね」ですね。」 「・・・・・・・」 財布から5千円2枚、2千円1枚出す。みかげの手に渡す。 その手はみかげの胸にいき、もう一方の手を重ねるようにお札を覆う。 「さて、まずは、財布を買いにいこう。」 「−−はい。・・・」 洋服屋「ケン」の向かいだ。店の前にたこ焼き屋の列が少しかぶっていた。 「この辺に確か財布売ってたはずだ。あったあった。」 「−−たくさんあります。」 「さ、選びゃー。必要な資金は君の手にあるからな。」 「−−・・・これが欲しゅうございます。」 「お、早いなぁ。どれどれ・・・うっ!げ、ゲッターロボ・・・」 「−−はい。・・・素敵です。」 「うーーん。趣味的にはいいかもしれんが、機能的に小物入れタイプだと苦労  するよ。もう少しじっくり探してごらん。この店、それから、あの店と、あっ  ちの店にもある。」 「−−そうですか。残念です。もう少し探してみます。」 「あ、それから、今日はここで一度解散しよう。2時間後に「身代わり不動」  の前で落ち合おうね。僕は、HMシール貰ってくる。げっちも店をぷらぷら  して、何か欲しい物や必要な物があれば買うといい。つまり自由行動だ。」 「−−そのような提案には困惑します。一人で行動できる自信がありません。」 「前回の失敗が整理されているね。ま、困りゃー。できん訳では無いだろうし。  何か発見があるかもしれんで。自信なんて回数で身に付くもんだ。前回が自  信有り過ぎだっただけだろうよ。」 「−−・・・はい。努力します。」 みかげは眉毛をハの字にし、眼鏡を正す。 やる気よわよわロボットさんになっている。それはそれで、虐めがいがあって、 何か来るものがある。 僕は走り出した。 □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□      真大須芹緒2!    スーパーロボッチ大戦F2改 □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□ 走る。走る。 一息で矢場町交差点へ。 息を荒くしながら、横断歩道を渡る。相変わらずここの歩道はつなぎが悪い。 僕が急ぐ理由は、みかげを見たいからだ。みかげが大須をどう彷徨くかが大変 気になっていた。テストセンターの受付に駆け込む。 「いらっしゃいませ。」 「すいません、あの先日HMシール貰ったのですが、なくしちゃって…。」 「そうですか。テストは受けなくてもいいのですが、再発行は同じような料金  になってしまいますが、よろしいですか?」 「あ、かまいません。構いません。あの、18000円、ここに。それから、  先日の登録用紙です。」 「あー、そんなにはいりませんよ。12000円程です。はい、ここにサイン  してくださいね。あとは、お待ち下さい。」 10分。 「はい、シールです。なくさないでくださいね。2台持っているときは2台持っ  ていると教えて下さいね。複数割引が有りますからね。」 「あ、はい。」 何だか見透かされているような感じ。店員はちょっと微笑んでから、シールの 入った袋をくれた。眼鏡はかけてないものの、何だか惹かれる受付さん。 「人間の女ってのもええなぁ。」 外へ出てまた走る。みかげを探さねば。こっちが見つけられちゃいけない。 僕は羽織っていた半袖のカッターを脱ぐ。 みかげはレーダーも搭載していないから、目の悪い一般人程度だ。そんなHM でも耳だけは良いらしいので、音には気を付けておこう。 まずは、身代わり不動の前。良かった、いない。 財布だけ買って2時間待つようなバカチンでは無いようだ。 僕はそこから歩道の隅を歩きながら財布屋まで行く。いない。 更にきょろきょろしながら「すがきや」、「ダイナ」、「コムロード」まで行 く。いないなぁ。海星堂まで行くが、無駄足。 折り返し、暫く歩くと見つける。丁度うどん屋前の角を曲がり突然見つけたの で、自分で自分の口をふさぐ。 「(おっと、声が出そうだった。)」 バック。角あたりまで戻る。 ゲームセンターの前に居る。 みかげはきょろきょろとしながら表に置いてあるUFOキャッチャーを覗いて いる。店内をそーっと覗き、またキャッチャーの前へ。 「???なにしてんだ。」 しゃがみ込み説明書を読んでいる。キャッチャーも知らないのか。 また、キャッチャーの中を覗く。きょろきょろする。さっきよりだいぶ顔が赤 い。みかげ、店内を覗く動作から数回繰り返す。 暫くすると小学生ぐらいの男の子がキャッチャーの前に来る。 みかげはバックして、少年に場所を譲り、その少年を凝視している。 ガタン。少年が200円の投資の後に1つをゲット。 少年はキャッチャーの取り出し口をのぞき込む。みかげ一緒にのぞき込む。 取り出される人形。少年はみかげと顔が合う。どんな顔をしたか、ここからわ からないが、みかげはちょっと肩をすぼめて恐縮する。 走り去る少年。 手にはマジンガーの人形が! 「・・・みかげ・・・」 みかげはようやく学習したのか、手にしていた財布を出す。 眼鏡を直し、お金を数えている。ピンクの財布だ。 「・・・CCさくら・・・」 僕でも買うのを諦めた商品だ。何よりも色が悪すぎる。 みかげ、100円投入。 1番のボタンをすぐに離してしまった。アームが横に2cmだけ動く。 「・・ぷっ・・・失敗だ。」 僕は笑えてきた。 みかげ沈黙。演算中か?その間にアームは勝手に降り、空を掴む。 動きに気づき2番ボタンを押すが、もう遅い。 だめだみかげ。だめだめじゃん。 みかげ100円投入。2回目の挑戦。 おお、来栖川HMすごい。さっきの失敗はしない。 2番アームも奥へ。いけるぞみかげ! なにやら、足のようなものを掴み1cm程持ち上げ、それは落下。 「ぷっ!欲しいのを直接取っちゃ駄目やねん・・・」 3回目持ち上がらず。 4回目3cm。他に変化なし。 ここで、みかげ肩を落とす。眼鏡を外し、目をこする。 「あれ?泣いてる・・・のか?」 眼鏡をかけ直し、財布を。1000円が出る。 みかげ店内へ。 僕はもっと近くと、向かいのフルーツショップに回り込み、栗子団子を1つ買 う。前から食ってみたかった。すぐさま一口かじるが、普通の団子だった。 みかげが出てくる。財布のお金を数える。 5回目の挑戦。 ぷらぷらと人形が持ち上がる。いいぞ! ぷらぷら ぷらぷら みかげ人形を凝視中。目からレーザーが出そうな勢いだ。 ぷらぷら ぷらぷら あとすこし! ぽと。 「・・・ぷぷっ。・・・」 腹がよじれそうだ。 みかげは呆然。念のためか、取り出し口を覗く姿が、涙を誘う。 そろそろ出てやっても良いかもしれないな。いやもうちょっと見ておくべきか。 6回目の挑戦。 駄目だ。既に先ほどのチャンスを逃した時点で、勝負はあった。そろそろ声を かけよう。また取り出し口を見ている。ないってば。純粋すぎて、気の毒だ。 「お・ま・た・せ。」 「−−!師匠!」 顔を上げるみかげ、ぽろぽろと目から涙がこぼれている。 やっぱり泣いてるぞ!それとも残量計算ミスか? 「お、おい、泣いてるぞ。」 みかげは眼鏡を上げ、人差し指でぬぐい取る。 「−−はい、CCDを洗浄しています。」 「洗浄。…僕は泣いているかと思った。」 「−−泣きたいという感情は持ち合わせてはいませんが、うまくとれなくて、    歯がゆい思いをしています。演算では成功しているはずなのに。」 「そんな時に泣くんだろうけどな。どっちかっていうと「悔し泣き」って感じ  だな。ま、見てろ、げっち。」 栗子団子を手渡す。 「−−はい。師匠。」 「よーっし。」 「−−・・・・・・・失敗してしまいました。やはり取れませんね。」 「ふふふー。げっちは甘いな。」 「−−?」 「これは布石だ。実質1回のチャンスしかないキャッチャーというものはだな、  その100円のゲットのために何百円もの犠牲の上で成り立つんだ。その1  00円でとるために作業環境を整えなくてはならん!」 「−−その1手を確実にするための、ということですか?」 「そうだ。今の技術は「寝かせ」といって、わざと転がるようにつかんだのだ。  他にも、「積み」や「広げ」「よけ」等がある。どれもその行為自体は人形  をとる行為ではない。だが、次の1回のチャンスは大きく広がる。」 「−−すごいです。取れました!」 ゴトン・・・。へろへろのファンファーレ。 みかげは上目遣いに僕を見る。 「−−私が…取り出してもよろしいのですか?」 「どうぞ。僕からのプレゼントだ。」 「−−・・・はい!ありがとうございます!」 取り出すみかげ。 「−−ああ!ガラダK7です。ありがとうございます!」 「ぷっ。とった物が出てくるんだよ。」 「−−そうだったのですか。…でも、嬉しゅうございます!」 みかげは人形を抱いて、2回ほど跳ねる。うう、HM買うなら来須川だな、や はり。まだ取れそうな気がしたが、今の雰囲気を維持したくて、これ以上取ろ うとはしなかった。 人形がややつぶれて、みかげの胸に埋まっている。みかげは横から覗き込むよ うに話し出す。 「−−早かったですね。」 「うむ。手首を開けなされ。」 「−−はい。」 プシュ。手首が開く。そこのフレーム部分にシールを貼る。古いシールははが して捨てる。まだ期限はあるが、要らない。 手首を2,3度さすりながら、 「−−私のために…本当に、はむっ」 「あんまりいうな。それよりも、ツクモに行くぞ!」 「−−はい。」 「財布見せてよ。目立つから忘れにくいね。」 「−−私は忘れることはまず有りません。それに…最初に買った物ですから。」 大事そうにみかげは財布を出した。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−fin