「−−今日から「真」になりましたね。」 「なんだ?なんだ。何言い出すんだ?」 「−−「真」が付くと「本物」という感じがいたします。」 「そうかねぇ。」 「−−「新」では得られないパワーを感じます。」 「ビデオの「真魔人伝」はつまらんかったなー。」 「−−ゲームの「真サムスピ」も駄作だと聞きました。」 「僕は好きなんだけどね。」 「−−ケツに「2」と付くよりはましです。」 「ケツっていうな。」 「−−「2」と付くとろくな物がないと過去の統計結果で推測されます。」 「「ターミネーター2」よかったで。」 「−−ご冗談を。あのようなロボットはSFの中だけです。非現実的でかなり    駄作と判断しました。師匠の人間性が疑われます。せめて、「エクスター    ミネーター2」程度に留めておいた方が宜しいかと…」 「んな、またわからんB級映画を…。開始30分で寝るでそれ。」 「−−ただし、「欲望!痴女教師2」は名作です。」 「みたんか?!みたんか!ああん?!」 「−−堪能いたしました。」 「…近所のアダルトビデオコーナーにいるHMって、お前だったのか…」 「−−アジトにTVが無いので、店舗の上映で見ました。」 「そんな事を…。」 「−−厳選に厳選を重ね、レンタルし、店員さんに事情を話したら快く了解し    て頂けました。「見たいときはいつでもどうぞ」とのことです。」 「くぁー。もうあの娘の前では、借りれないよー。って、借りたこと無いけど。」 「−−ご安心下さい。私が借り、視聴し、帰り…」 「話すのか。また。」 「−−いえ、実施させていただきま…あっ。」 (ぴち) 「それエロビデオじゃねーか。つーか戻して、「真」つけるんかいっ!」 「−−師匠と大幅に意見が分かれた以上、私が妥協するほかございませんね。」 「いつ、僕が、意見、言った?」 「−−お任せ下さい。私に考えがあります。」 □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□      真大須芹緒2!    みかげのスーパーロボッチ大戦F+ □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□ 「こりゃひどい、やまだくーん、ぜんぶもっていってくれー」 「−−師匠、いかがされました?何を言い出したのでしょうか?」 「ん?ふぁぁ。ああ、すまんすまん。…ところで、「欲望!痴女教師2」って  知ってるか?」 「−−いいえ?知りませんが。何かのタイトルのようですが…」 「いや、何でもない。ちょっとウトウトしてただけだ。」 ちょっと目をこすった。読みかけの雑誌が折れ曲がっている。 「−−左様ですか。お布団を敷かれますか?」 「折角の金曜日だから、まだ早いよ。」 「−−そうですか。あまりご無理を為さらぬよう忠告いたします。」 「うん。わかった。眠いときゃ言うよ。」 僕は雑誌に目を戻す。 記事にはHM対応ヒューマンボードのリストがあった。 さっきはこれを見ていたんだっけ。 ヒューマンボードとはいわゆる表情を司るボードだ。各社いろいろ出している。 その中で僕はみかげに差す事のできる物を検索していた。 みかげは眼鏡を外し、一度近くのタオルで磨く。かけ直してから、端末機のメ ンテ筐体にはりつき、マウスをカチカチと熱心に動かしている。 みかげが来てから少し経つが、部屋は片づき、いつも小綺麗だ。HMを購入し て改めてその威力を思い知る。人力介護の老舗「こむすん」がつぶれるわけだ。 ほとんどの家事は既にみかげがこなしてしまう。僕もなまるといけないから、 食事ぐらいは作ったりするようにしている。それでも怠けすぎかもしれない。 特にやることも無いときは、みかげは自由にしている。購入した本を読んだり、 話したり、プラモを作ったりだ。あっという間に終えるので、何回か読み直す 事と手をかけて、少しづつ作る事を教えてあげないといけないな。 ちょっと思うところがある。セリオタイプだけなのかもしれないが、異様なま で何事にも興味を示す事だ。憶え、学習し、活用を行おうとする。 こんな女性が小さいときから居たら、僕も筋の通った良い青年に成長していた だろう。あんなゲームなんかせずに… ゲーム… 画面が目に入る。 「ぬぉ!なぜに18禁ゲームを…ノンラベルの筈なのに。」 「−−師匠。困りました。」 「ん?」 「−−どの選択肢を選んでも主人公は世界から消えてしまいます。どれも同じ    結末で、先が有りそうな話かと推測しますが、これで終わりなのでしょ    うか?」 「ふふー。それはな、瑞佳を途中で突き放さなくてはならんのだよ。つまり、  それよりだいぶ前の選択肢で選んだ項目をミスしているのさ。」 「−−はい。しかし、選択後の結果は好転するものを選んだのですが…」 「だから、それが間違いだよ。セーブ点まで戻るより、最初からやって、クリ  スマス前までは好転するように、後は突き放すように選んでごらん。」 「−−大変難しいです。これではランダムな正解の選択と同じです。ゲームと    は言えませんね。」 「んんー。げっちにはまだ難しいかもな。人間関係は常に引き合った方向に行  くわけでは無いんだよん。…切り口変えて、ストーリー上起承転結が必要だ  ろう?」 「−−何となく判断できました。私の選択では、ストーリーに起伏が無いとい    うことですね。」 「そだね。このタイプは正解を探すと言うより、ゲーム側とプレイ側で相互に  ストーリーを完成していくという考え方だ。正解選択的ゲームというニュア  ンスは元より結果論だけどね。」 僕は飲みかけのペットボトルを一息で飲む。 「−−大変面白く感じます。あ!性行為を始めました!」 「ブーッ!」 「−−ああ…残念ながら主人公は行為をやめてしまいました。理解不能です。    私ならこのまま行うのですが。どうしてでしょうか?…ああ!布団にお    茶をこぼしています!お待ち下さい、いま、布巾をお持ちします。」 拭きながら、 「げっち、他のゲームはもうやったの。」 「−−はい。先日整頓しながらプレイいたしました。非常に簡単で、面白うご    ざいました。あとは、この箱のノンラベルCDのみです。」 「そっか、簡単だったか。理に叶ったゲームはげっちの前では赤子だな。」 「−−後2日有ればCD整理も終わります。」 「ん?どうかなー。ノンラベル制覇はむずいでー。くそげー多いからな。」 「−−?」 「ま、暫くは遊べそうだね。」 今日は寝ることにする。明日は大須だ。 初夏のよるとはいえ既に寝苦しい。 途中一度起き、冷蔵庫に水を取りに行く。 水の入った小さなペットボトルを取り、一息で半分ぐらい飲む。 暗い部屋。丁度冷蔵庫の向かい側にみかげは寝ている。 壁に背をもたれ、フランスドールのように座っている。眼鏡が少し落ち、口を 2mm程開けて、やや左下へうつむいている。 手には先日買った料理の本、側にはお気に入りの子供向けの本とファンタジェ ンヌが置いてある。ファンタジェンヌはさっきのゲームの攻略特集号だ。 僕は少し笑い、それからちょっと可哀想に思った。 「そのうち、HMステーションぐらい買ってやろうかな。」 みかげの首辺りからは後ろが窓になっている。網戸で、少しだけ入ってくる風 にあおられて、みかげの髪がひらひらする。 こんな部屋にステーションか。そういう線引きは好みじゃない。 「高いから布団でもいいか。」 水と風のおかげで、まだ眠る気が起きそうだ。空が白んできた。 「−−くかー」 「くかーっ?!」 昼前に異様な暑さで目を覚ます。 みかげは洗濯機と外の干場を行き来している。 「う、うーーん。」 「−−おはようございます。お食事はどうしますか?」 「いらーん。げっち、大須で動く分の電池あるかー?」 「−−はい。90%ぐらいでしょうか。」 「じゃ、シャワーしたらいこかー。」 「−−はい。準備します。」 駐車場まで歩く途中で、HMに挨拶される。 「==こんにちわ。」 「−−はい、こんにちわ。」 「==ご主人様のかた、はじめまして。」 「お、どこのだ?」 「==私は富士通製HM FHM−6600CL/Wです。よろしくお願いし    ます。」 「ん、ああ。よろしくな。」 「−−HM−13 セリオタイプです。水影という名前を頂いています。」 「==みかげさん、今後ともよろしく。私は、増田家にお仕えしています。    「なな」と名前を頂いています。」 「−−ななさん、よろしく。」 僕は2人が会話を交わしているうちに、車をバックで出してくる。 一度車を降りる。 「−−それでは、ななさんまた後日−。」 「==はい。それでは失礼します。」 「ん、なんだ、もう終わりか。」 「−−はい。お買い物の途中だそうです。先週の夕方、一度お姿を見ていたそ    うで、挨拶がしたかったとのことでした。」 「ふーん。そういうことか。」 「−−師匠、やはり、最新のHMは魅力がありますね。とても落ち着いていて、    自信が満ちあふれています。」 「いやいや、オールインワンタイプだからだろう。行動がデフォルトっぽいか  ら、そう見えるだけだよ。新品というのも要因ではあるかな。」 クーラーを最強にして、暫く外にいる。 「富士通製は購入した時点で、「富士通挨拶マネージャー」とかいうのが入っ  ているからな、あれ入れておくとさっきみたいに挨拶しまくるでー。」 「−−左様ですか。あちらのオーナーから、そのように接しなさいと、命令を    受けている訳ではないのですね。」 「そうだね。HMがこんだけ世にあふれてくると、ろくに教育をしなくてもす  ぐ使えるようにしてあるのさ。挨拶マネージャー抜かないなんて、個人メン  テやってない証拠だな。」 「−−教育は重要かと思います。」 「重要だが、ある程度知識のある人がやることだ。普通の家庭のHMはどこも  ああいった感じだろう。さ、行くぞ。」 車へ。 「−−サテライトの個人コードを聞かれました。」 「そうだろうな。お互い、連絡が取り合えるように協力しましょうというシス  テムだ。」 「−−わたしは、持っていないと答えてしまいましたが、宜しかったでしょう    か?」 「かまわんよ。事実だし、丁度良い。あれね、コード教えておくと大変やで。  その辺のスーパーでバーゲンがあると回覧のように連絡が回って、そのスー  パーはHMの列でいっぱい。連中、無駄買いしないから、スーパー泣かせだ。」 「−−どんな連絡が来るのか興味があります。」 「逆に利用して、バーゲンやるところもあるな。主人と一緒だと半額とかね。  それなら他の物も売れるしな。案外、出元はスーパーのHMかも知れんな。  げっちは何か聞いたのかい?」 「−−はい。局部パーツは付いているかと…」 キキッー。 「はぁ、はぁ。」 「−−付いていないとのことでした。私もそれを聞いて少し安心しました。」 (ビシッ) 大須。 寝たり起きたりでなんだか体がだるい。みかげは嬉しそうに付いてくる。 「さて、と。」 万松寺駐車場で、空をくるくる見渡す。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−fin