また、雨がぱらぱらと降ってきた。22時を回る。 おなじみの、アジトのようなアパート。 車から走って、アパートの2階へ。駐車場から少し距離がある。 僕は買った本を頭に載せたまま2階へ、玄関を開け、セリオを見る。 買った本を大事そうに両腕で抱きしめ、小走りでやってくる。 「だいぶ降ってきたねぇ。」 「−−はい。ぬれてしまいました。」 「ああ、多少ぬれてもいいから、あがりゃー。」 「−−はい。タオルを探します。」 「そこそこ。」 「−−はい。……」 「ん、どうした。」 「−−あの、部屋の掃除をしたいです。」 「タオルは思いっきり引っ張れば出てくるよ。」 「−−はい。では。」 「あー。」 「−−申し訳ございません。掃除を希望した本人が散らかしてしまいました。」 「まー、拭きゃーせ、先に。」 −−−−−−−−−−−−−−「大須芹緒組5」−−−−−−−−−−−−−− −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 僕は早速メンテをするべく背中を開け、右腕を外し出す。 メンテ中も電源が入っているように、3箇所から、電源を入れる。 「右肩あたりの電源をカットして。」 「−−はい。」 カクン。右肩の緊張が解ける。 「−−服で、ございますか。」 セリオが話を戻す。 「うん。買ってやらんといかんがね。」 「−−このままで結構で…ふむっ。」 僕は鼻をつまむ。突っ込みの言葉は入れず、肩のベアリングにドライバーを当て る。負荷が掛かっていたせいか、なかなか外れない。 「−−……はい。ありがとうございます。しかし、服は特に何でも良いかと考え    ております。」 「ちみは、スカート派かね?ズボン派かね?」 「−−……作業効率と熱放射の選択ですね。稼動のあまりパンツを露呈させるの    も旦那様の世間体の問題があるかと思いますので、スパッツかと。」 「おお!スパッツ派かね!」 「−−スカートを上からはけば、見栄えも宜しいかと考えますが。」 「スカートスパッツと来たね!」 「−−何か…いけませんでしょうか。」 「いいよーいいよー。あ、6番の線抜いて。」 「−−はい。」 僕は、テラメディアと一緒に買った汎用ベアリングをはめ込む。 「肩、調子よくなったと思うから、肩に渡すパワー修正しておくようにね。」 「−−はい。本当になんとお礼を言えば良いか…」 「何言ってんでぃ。せり五郎!まだまだ直していくぞ!これからは一緒に点検を  していくつもりだ。自分の体は自分が一番解かるがね。手伝えよ。」 「−−はい!。(うるうる)」 奉仕魂に火がついたか? 「今日はこの状態で、バックアップ開始だ。か・い・しー。」 テラメディアが動作する。 「バックアップしている場所の画面を見ながら、うまく読みこみロックを外せよ。  CDが出てきたら、これに換えていく。」 CDをポンポンとたたく。 「−−はい。」 僕は燃料電池を外し、それにチューブに入った燃料をネリネリと注入する。各部 分をチェックする。 「バックアップは2回取る。2回目は僕は寝ているだろう。がんばるように!」 「−−はい!」 「あ、埃に弱いから、入れ替え時はこれでシュコシュコしてね。」 「−−エアポンプですね。」 メインのバッテリを取る。急速充電器のアダプタ部分につける。 シャワーを浴びにいく。 「今日はバッテリはずしておくから。」 シャワーを浴びながら、思い返す。まだまだセリオの中はがらがらだ。本当に必 要最小限で買ってしまった。 (全部買い揃えると、オールインワン買ったほうが安かったろうな。) と、ぽつり。 さて、寝るか。 セリオは、画面を見ながら、ほけーっとしている。背中が開き、右腕が外れてい るが、その姿は純正お色気眼鏡っ娘だ。 僕は、布団に入り、仰向けでセリオと話す。HM整備という最大のメンテはこの 部分にあるといっても過言ではないらしい。 「今日は疲れましたか?」 「−−燃料電池まで使用した事から、表現的には疲れたと表現して良いかもしれ    ません。旦那様もお疲れ様でした。」 「そだねー。今日はどえらぁ疲れたね。」 「−−今日はいろんな事を覚えました。何か、感慨深い気もあります。」 「HMの稼動1ヶ月は来栖川サービスに持ち込まれる事が多いらしいよ。先輩が  お客様相談コーナーで働いているけど、大方が、メモリ整理がオーバーフロー  だってさ。」 「−−私も心配でございます。」 「違うんだなぁ、それが。そんな大量の障害の中、セリオタイプは1体もその障  害に含まれてないんだがね。来栖川も気づいてか、あんた直系の妹が、夏に発  表されるってさ。掲示板とかはその話題で持ちきり。」 「−−楽しみです。でも、旦那様もそれが欲しいのでは無いでしょうか。こんな    中古のHMよりも。」 「ふぁーぁ。自分を卑下するのは良しなって、そんなんなら買っとらんがね。夏  に出るって聞いてるのに。」 「−−複雑です。パラドックスでしょうか。」 「いや、真理だね。お前さんは名機だがね。」 「−−局部ユニットは購入していませんが、御存知という事は、そうなのでしょ    うね。HMとして、恐縮です。」 「そりゃ、名器のほうだ!(新聞丸めペシ)第一そんな気は無いって。」 (今日はだいぶぐらついたけどな。) 僕はセリオとは逆のほうに寝返りをうつ。 「−−そうですか、私は「し」とう存じます。」 セリオは左手で畳みのゴミを拾い出す。 背中で剥き出しのファンが回り出す。 あー、だんだん寝れなくなってきた… 「−−できれば次の購入は局部ユニットでも…」 「(ぺし)」 「−−サードパーティー品でも構いま…」 「(ペシ)余分な演算はやめて、バックアップしやー!僕も寝るっ。」 「−−はい。」 とはいったものの、この夜はなかなか寝つけれなかった。 明日は、服買って、大須だ。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−fin