「−−ご帰宅なさるんでは、ないのでしょうか。」 「帰る前に、ここに来たかったのさ。」 「−−まんが喫茶ですか。聞いたことがあります。」 「?どうゆこと?過去にこういう情報拾ってるの?」 「−−はい、以前の職場にて隣で働いていたHMさんが、かつて働いてい    た場所だったと記憶しています。」 「へー。HM同士でも情報交換するのか。」 「−−個体同志の情報交換は大切なので休憩時等、たまに行います。」 「−−実は、私たちセリオタイプはサテライトを通して常に行えるのです    が、相互のメモリアクセスが多くて自己保護が働き、交信が減って    いきます。私が稼働しだした頃は2、3体が細々と交信していまし    た。特に情報が多いわけでも無いので、私もそのうちアクセスをし    なくなりました。固体同志の情報交換を重要視する理由です。」 「さびれた掲示板と一緒や。ははは。HMもって解かる近所のHM井戸端  会議の秘密。ってとこか。はじめて知ったよ。」 「−−その方の情報から考えるに、私では不向きかと思います。」 「どうして?」 「−−3時間ほど前の件でおわかりになると思いますが、私に性奉仕ブロッ    クにデータが無いからです。私個人の希望としては、そのような奉    仕も旦那様に是非したいのですが、奉仕データが無…」 「それまんが喫茶ちゃう!」 −−−−−−−−−−−−−「大須芹緒組4」−−−−−−−−−−−− −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 漫画喫茶と同伴喫茶は、かなり違う。 僕は丁寧に説明しながら駐車場へ向かい、車を停車する。 「−−そのような店だとは知らず、大変失礼な内容を話してしまいました。    どうか、お許し下さい。」 「いやいや、気にするな。そのような店、いわゆる自前のHM連れて行って、  その…「する」店舗が、東京の歌舞伎町にありゃーすと。」 (僕たちは聖地と呼んでいるがね。) 車から降り、店舗に入る。漫画喫茶「ピーク」 入り口には今月の新刊の表紙がポスターのように並んで張られている。 「−−わずか1ヶ月の間にこんなに発行されるのですか?」 「うむ。」 「−−驚愕です。人間の力のすごさを感じました。」 「中にはその歴史があるぞ。」 「−−大変興味深く感じます。」 カランカラン。 「いらっしゃいませー。」店員が軽快な挨拶をする。 僕たちは小声で話し合う。 「ま、静かにしやーね。」 「−−はい。」 「今日ここへ来たのは、これだがね。」 「−−これは…専用高速端末です。」 「いわゆるインターネット機だ。」 「−−はい。みたこと無い型ですが。」 「時代の流れだな。僕んちより大容量高速アクセスができよるぞ。」 「−−はい。」 「ここから、来栖川WEBサービスに行って、ファームウェアとかのバージョ  ンアップを手当たり次第拾ってこやー。」 「−−そうでしたか。さすが、旦那様ですね。ここまでお考えでしたか。」 「まーね。って、時間料金高いから、早く落としゃんせ。」 「−−御意に。」 店員が注文を聞きにやってくる。アイスコーヒーと水をたのむ。 僕はベルセルクの21巻を拾ってきて読み出す。 セリオは、眼鏡を外し、水をこくこくと2回ほど飲んでから、眼鏡をかける。 「−−では。」 少し驚くほどのタイプで画面が変わっていく。ううむ。旧式とはいえ高性能。 たーりーらーりらーたーたーたたー。 「会社からだ。バッチ処理が手こずってるな。せりえもん、あとは頼むぞ。」 僕は表の駐車場に行く。 トラブル応対は長く続き、僕の携帯の電池も力尽きる。仕方ないから、今日 は打ち切り、後はメール指示という事で、仕事終わり。 電池切れのお陰で、予想外に仕事が片付き少し浮かれる。ほんとならこのま ま出社だ。 鼻歌混じりに携帯を停止に。 「ぐうぜんがぁー。ふーふーふふー。」 カランカラン。「いらっしゃいませー」 「ぬお!」 「−−はい?」 セリオは眼鏡を指で降ろし、上目遣いでこちらを見る。いつもの首を傾げる。 「ね、ネットは?」 「−−終了いたしました。何もしないのも問題があると判断し、…」 声をさえぎるように質問。 「で、これは?」 「−−釣りバカ日誌の21巻です。」 「−−20巻です。」 「−−19巻です。」 僕は机に積みあがっている本を手に取る。 「17、16、15。」 「−−ご心配なく、ちゃんと1巻から読んでおります。」 「いや、そうではなくて。」 「−−あ!ご心配の可能性ですが、旦那様の読んでいる巻数を抜いてしまっ    たかも知れません。」 「そんな可能性はゼロだ。」 「−−さすが旦那様。ゼロという事は既に読破しているという事ですね。」 「なにゆーとりゃーすか!(ぺし)」 「−−は、はい。申し訳ありません。万が一1冊も読まれていないほうで    したら、私が、今晩これまでの過程をお知らせすれば、21巻から    読んだ事として、後日読まれる場…」 「(ぺし)」 「−−あの、私は何か失態を…。」 「…まぁ、ええ。おけおけ。じゃ、なぜにこれ?」 「−−選択の理由質問と判断しましたが、あの棚の本を旦那様が読まれて    いた映像を記憶しています。どれか解からなかったので、可能性の    高い本を選びました。」 「可能性とは巻数か。」 人気コーナーの棚には、ベルセルクの上の段に釣りバカ日誌がある。 「−−大変面白く興味がある漫画と判断しました。私はこの本に好感を持っ    ていると思います。」 「そりゃ、事象を連ねているからさ。あんた向きかもな。他の漫画は違う  ぞ! 行間を読まなければいけない時もあるし、下手な絵で表情を判断  しなくてはならん時もある。ま、その逆もある。」 「−−漫画の世界は深い気がします。人間のように創造的で、非常に重要    な情報を多く含んでいると推測します。」 セリオは両手の平を胸の前で組み、目を閉じる。 ポロポロポロポロ 「おお、せりょん!」 「−−?」 「泣いてんのか?!」 「−−感激は、微弱ですがしています。あ、これは、燃料電池に切り替え    た為です。」 「あっ、燃料電池高いのに…」 テーブルを見る。2回ほど飲んだはずの水が増えている。呼び水か! 次回から気をつけなくては。ジト目で、セリオを見つつ、清算。 3400円だった。危ない。 帰り際、車中で注意をする。 「口から出さず、できるだけ貯めて、トイレに行きなさい。」 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−fin