狭い部屋。 何だか配線やら書籍やらがいっぱい転がっている。 漫画や雑誌が無尽蔵に上方まで積み上げられ、紙の柱のようだ。 おそらく人が寝るだろうという場所だけがすっぽりなにもなく、 布団が敷いてある。 「あっと、しまった。」 僕はキーボードから手を離し、ぱらぱらと雑誌をめくっていく。 「−−何か失敗をなさられたのでしょうか?」 眉を八の字にして心配そうにセリオがのぞき込む。 「いやね、ここのバンクを切り替える機能があって、片側だけ  あ!暗いから覗くなって。」 「−−誠に申し訳ございません。」 「いやいや、興味を持つことはいいんだけどね、こっち側からこう…」 「−−こう、でございますか?」 「ううん、こうっ…」 「−−こう?」 「こう!」 −−−−−−−−−−−−「大須芹緒組2」−−−−−−−−−−−− −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− ま、横で見られててもやりづらいから、ちょうど良い言い訳だ。 いささかセリオにあの格好は無理だろう。やるなら僕はデジカメで撮る。 HP上げて全国公開だ。そのつもりでデジカメの場所を一度確認。 セリオ動かず。 ロボットの恥じらいってとこだろうか。そう思い、少し吹き出す。 セリオはあきらめたのか、布団の上に腰をおろす。上を見ているセリオ。 僕は一度首を傾げ、自分の作業に戻る。 暫くはキーボードの音だけが響く。 「−−問題がわかりました。蛍光灯が1つしか付いていません。」 「んなもの1年前からだ。1本しか買ってない。第一そこに2本あっても光源が  1点だから意味無い。」 セリオは崩した座り方から正座へと身を正す。 「−−それです。光源が1点だからです。これでは旦那様も作業のはかどりが悪    うございます。」 少し眉毛がつり上がって、僕の方へ正座のまま両手で近づく。 「−−別途スポットを購入すれば解決するのでしょうが、蛍光灯が1本である事    から考えても、購入するようなお人柄では無いことがわかります。」 「う…、鋭いね。本当の問題点はそこだろう。」 「−−なぜ、雑誌や私のパーツを買うのに、スポットライトを購入なされないの    でしょうか?価格的にも幾分と安いような予測ができます。」 「そんなこといったら、あんたはここにおらんよ。」 僕は一笑する。セリオは固まる。 「−−……愚問でした。処理がパラドックス判断で緊急停止しました。」 すっくと立ち上がるセリオ。手のひらで部屋の一角を指す。 「−−さて、問題点が解ったので、解決も可能な事が解りました。あちらに行っ    ている光、旦那様にとって無駄な光をここへ呼べばよいのです。」 「おお。」演説にやや感動。期待。 セリオは180度回転し、本や服が積み上がっているところへいき、てきぱきと 荷物をスライドさせていく。ハノイの塔を解くかのごとく、同じ場所へ、違う場 所へと何冊かの冊子を動かしていく。 3分ほどすると2つの紙の小塔と、ネクタイが山ほど掛かった衣装鏡が現れる。 「−−ご鑑賞ありがとうございます。」 と、ネクタイをどけ、にこりとしながら鏡を傾ける。 「おお!手元が明るい!」 「−−これなら一銭も使わずに作業環境が改善されました。」 さすがメイドロボ!ご主人様のために機能フル回転か。 「−−私の調査欲求も解消できます。ささ、作業を続行なさって下さい。」 ちょこんと僕の横に正座する。眼鏡を外し、手入れをしてからかけ直す。 (やりづれー!!!!) 自己欲求のためのフル回転だったのか! 小一時間ほど経つとようやく作業も解決の兆しが見えてきた。 「よし!、メモリアドレス打ち込み終了!CD付きを買えばよかった。」 「−−そうですか。そのソフトは何でしょうか。」 「HM革命バックアップだよ!(ver1.2)これで、おまえさんのメモリ  バックアップがとれるぞ!」 「−−また、サードパーティー品ですか。」 「ええい、浦島ロボット少女め、時代の流れは速いぞ!このソフトはあの大手、  NE●も使っているんだぞ。ある程度信用しても良いだろう。」 「−−はい。信用します。」 「………そんなに純粋だとあんた、危ないおじさんにさらわれるよ。」 「−−?」 インストールが完了し、先ほど打ち込んだアドレスを参照させる。 デフォのセリオ型メモリバンクはソフトに入っているが、こいつは増設させて いるので、一苦労だった。 モニタにぱらぱらとマップ画像が現れる。 「さて、セリの助、出番だ。」 「−−はい。」 両手をあわせ目を大きくさせる。これがまた眼鏡越しでかわいい。 「中古買いだけあって、最適化が楽しそうなマップだな。」 「−−申し訳ございません。充電中に努力しているのですが。」 (こいつは…24時間働かされていたのだろう。買った箱の中に有線アダプター  の一部が入っていた。右肩のベアリング割れもそのせいだろう。) 僕は少しだけ不憫に思った。 (なぁに、僕が買ったからもう安心だ。快適な…) 「快適なロボットライフがこの先にあるぞ!」 「−−え?どの先でしょうか?」 「おおっと、いけねぇ、しゃべっちまった。」 「−−?」 僕とセリオは必要なバックアップ箇所を洗い出していった。メイン制御は全部保管 するとして、問題は技能追加エリアだ。 セリオがメモリ消去を嫌がった訳も解った。 「−−はい、ですから、サテライトサービスキットを再購入しなければ、必要なデー    タを入手できません。そこで、過去のデータで必要な部分を生かせば、より    よいご奉仕を旦那様に行えると判断したからです。」 「うう。」僕は下唇を噛んで半分泣きに入った。 「−−あのっ、手をお止めにならないで下さい。さ、作業のリズムを戻しましょう」 泣く子のあやしかたも知らないセリオ。励まそうとしてか、明るい声で話す。 「あ、ごめごめ。えっと大体OKだから、容量確認っと。CD12枚だから、1枚 約0.65テラだから…8テラか。」 「−−テラメディア、1、2、3枚しかありません。」 「ぐぉぉぉおっ。先週ゲームをピーコしたんだった!」 両手で頭を抱えた後、画面にかじりつく僕。 「ここは?ここの情報。」 「−−世界の動物図鑑です」 「いらん!」 「−−はい(カタカタ)」 「ここは?」 「−−ここは…あのっ…肉体的なご奉仕用のサービスブロックに当てています。」 「ごくっ。」 「−−マッサージや肩もみの事ですよ。」 「がくっ。」 「−−ご期待された部分はこの辺りに入ります。ダウンロードしていないのでブラ    ンクで既に除外していますが。」 すっくと立ち上がる僕。指1本で部屋の中を指す。 「行こう!大須へ。」 「−−は、はい。」 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−fin