「ふむー。」一呼吸おいて、「やっぱ急速充電ユニットかな−。」 「−−旦那様、何をいっていらっしゃるのですか?今の充電で翌日    の活動時間には間に合います。…お金を貯めになったほうが    宜しいかと提案いたします。」 「なぜにまだ旦那様?」 「−−申し訳ございません。ロックがかかってしまい、メモリの書    き換えができないのです」 「やっぱ、フルメンテが先かな−。構築しなおしたほうが・・・」 「−−あ、再三お願いいたしておりますが、勝手な要望ながら、デー    タマップは残して頂きたく存じます。サテライト無…」 言い出しをろくに聞かずに制しながら道を歩き始める。 腕を組み、難題を解くような顔をして話し出す。 「うー。約束したからわかってるって。でもロックがかかるのは、  初期化時のブロック異常を引きずってんだよ。週間HMで読んだ。」 「−−旦那様…」 「ええい、恥ずい!デフォ値の呼び名を使うな(ペシ)」 そんなやり取りをしながら、霧がかった小雨が降るのを避けるためか 屋外天井のあるアーケード通りに足を踏み出した。 セリオの傘は閉じにくく、少してこずってから、小走りであとを付い てくる。今は僕が主人である。 セリオを買った。ついこないだ。高かった。 ほぼ衝動買いに近い。 「やっぱり先に充電機だよな−。」 −−−−−−−−−「大須芹緒組」−−−−−−−−−−−−− −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− んまぁ、いきさつはこうだ。 ショップ「ドル山」の側にできた「扇屋」で中古で売りに出されていた。 内蔵部品でいくつか足りない部分が合ったが、価格的にはお手頃だった ので、ローンを組んで買った。 いまや、異様に高性能なメイドさんらが並ぶ中、1世代前のマシン、 (こいつ)を買ったのはシリーズピカイチののパーツの多さと個人的な 趣味だ。通と言いたいならこれの後継機かこれを買う。 今日はお披露目で連れて歩き倒すつもりだったが、小雨とボーナスの余 韻のおかげで大須に来てしまった。 パーツでも探すか。 「せりりん、なんか欲しいものあるか?」 「−−せりりん?」 この世代でこの反応動作は無くなってしまったが、ちょっとだけ首を 傾げるこの仕草も好きだ。この部分だけ別途設定に入れなおす人も多い。 学習していくので、この仕草を見ることが出来るのも最初のうちだけか。 ちょっと残念。 「セリぴょん?せりたん?せりせりなんか古くて良いかもな。」 「−−旦那様、私の名前設定はセリオでは…」 「愛称ってものがあるだろー?んんー?愛称。」 「−−はい。」 「じゃ、決めて。そう呼ぶから。」 「−−私から旦那様に指示できるような事はありません。あの、」 セリオの返事を待たずに歩き出す。角を曲がってグッドウィル百貨店だ。 そのむかいにある8号店に入る。 「ちーっす」 店員に渡辺がいる。良く遊ぶ仲間だ。 「おお、久しぶりっす。おげんきでし…か、買ったんすか!」 「うむー。」ちょっと胸を張る。 「何でまーこんな古いのを…」 「売ってたんよ、それが。で、ギャロップメモリだけ増やした。  あとはー、適当に最低限動くとこだけ買った。」 「ドル山の隣でしょ?」 「お!」 「あれ、1週間ぐらい置いてありましたよー。2体あって、1体はすぐ  売れたけど。程度良かったもの。…そっちは、ヒソヒソ」 渡辺君得意の裏情報。聞いた後で後悔するパターン多し。 「2個1か。俺でもやるな。常套手段だ。」内心少し悔しい。 どうやら部品取りに使われたらしい。安いわけだ。 僕は付け足して言う。 「ま、さらに値切ったし、いいよ。」 「POSは?」 「まだインストールしてないよ−。っていうか、そのまんまだった。」 店内を見まわしながら言う。ここは、HM用の結構マニアックな物が 多い。同人動作集とかもある。あれ買うとにゃんにゃんとか、はにゃーん 等、マニアックな人が喜ぶ動作をしてくれる。買わんけど。 セリオはキョロキョロとしてから、少しうつむいてぶつぶつ言っている。 「それ、やばいじゃん、メモリ消してから売らんと。」 「別にー。自分で消して入れるからって安くしてもらった。」 「ひょー。この人は。店泣かせだねぇ。で?」 渡辺君の来店の趣旨質問に、僕は目を一度セリオに向ける。 「−−せりすてぃん、せりねーぜ…」 僕の目線に気が付きぶつぶつ言っているのを止め、 「−−はい、何でしょうか?」 「どしたの?」 「−−はい、音域調査も含めて、名前の可能性を検索していました。」 そうか。サテライトシステム無き今は、独自でやんのか。 渡辺君に振り返り、ゆっくりと言う。 「め、が、ねー」 「やっぱり!これ買うためにHM買うぐらいだもんね。」 といいながら、既に手にした箱をいくつか出す。CCDフィルターだ。 2点ほど買って1500円。 店を出て、返す刀で百貨店も行く。HM用急速充電器を買う。 18600円だ。エクシード製のやつ。プレステのパッドがHM機に 一発でつながるアダプタで有名になったメーカーだ。 2つを買い、セリオに持たせる、近くの公園で開封。 「−−これは…メーカー推奨製品ではありません。」 「お、いっちょまえに自分の事となると言うね−。」 「−−いえ、旦那様、そのようなつもりで言ったわけでは…」 「君の情報が古いんだよ−。いまは、これ!60機種に対応しているし、  バッテリー負荷も少ないのだ−。」 箱の裏を見るセリオ。少し納得したようだった。 「もう1個もう1個」 僕は急かすように、ポケットに入れたままの手を振り、開封を覗き込む。 「−−全天候眼鏡…ですか。後日、旅行のご予定などがございま…」 ニコニコしながら否定。眼鏡を手に取る。HM用に耳掛けではなく、その 部分にアジャスターが付いている。 「ちがうよ。いつもそれつけてね。プレゼント。」 「−−かしこまりました。ありがとうございます。」 僕は眼鏡を取り出してセリオに渡す。眼鏡をかける。 「おお、いいねぇ。」 「−−恐縮です。この環境では不必要かと予測しますが。」 「ファッションだよ。ま、CCD高いから用心に越した事は無いしね。」 「−−はい。」 「それに眼鏡は好きだしね。」 「−−左様ですか。」眼鏡を外して、眼鏡をまじまじと見ている。 「眼鏡自体じゃないよ。」 無言で首をかしげるセリオ。 開封後のゴミをごみ箱に捨てて、また歩き出す。そう言えば雨もやんでいた。 飯が食いたいので、HMの充電も出来る「キッチン東京」へと向かう。 「前の主人、この辺の人?」 「−−お教えする事はできませんが、少し遠距離です。」 「ふーん、なんて呼んでたの?」 「−−おい とか、おまえ です。」 「世の中きびしいねぇ。」 僕はセリオがうまく畳めない、壊れ気味の傘を横取りする。 セリオは一度立ち止まってから、また小走りにあとを来る。 「−−私は良い主人に再購入されたような気がします。」 「誉めてんだ。付き合いがうまいね、せりぽんも。」 「−−せりぽん?」 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−fin