ない・・・。 きっと、どこかに落としたのだ。 ・・・検索。時間7500秒前。・・・ある。 6800秒前・・・ある。 5200秒前・・・ない。 6200秒前・・・ある。 この約17分間の間である。 −−−−−−−−−−−−−−−−春先のホタル−−−−−−−−−−−−−−−− 河原沿いの堤防。私は堤防の小道を歩き、河原に行き、子供たちを注意した。 おそらくはこの時だ。 私は外出着に着替え、やや小走りに河原に向かう。 夕方の河原は赤く。 ざ、ざ、ざ。 辺りを見回すが、見あたらない。 夕方の露光量が低く、CCDに写る映像があまり鮮明ではない為だろう。 腰を低くして、同様に探す。 ざ、ざ、ざ、ざ。 ・・・見あたらない。 メモリを再検索。やはり、この時間に落とした可能性が高い。 さらに解析を深く行うには、CCDからの対地距離を縮めれば良い。 四つ足になる。 ざざ、ざざ、ざざ、ざざ。 「ん?おっとっとっと!」 キキキー。 「よう!山本さんとこのメイドじゃねぇか〜?」 自転車を止め、ポッケに手を入れてふらふらと歩いてくる。 「−−河合酒店の店主様。ご機嫌、いかがですか?」 「なーにが、ご機嫌いかがなもんかぁってんだ。酒代回収しにいったら、逆に酒代  とられちまってよぉ〜。」 「−−そうでございますか。お酒を購入したのですか?」 「ゲハハハハハハ!飲み屋だよ。そこで飲んだから、自分んとこのお酒に金払っち  まったよ。」 「−−左様で御座いますか。」 落日まで、予想1860秒。急がなければ現行の物質判別では捜索不能となってし まう。 「−−お話中、申し訳ありませんが、作業を続けさせてい・・・」 「それはそうと。メイド、こんなとこで何してんだ?」 「−−はい。捜し物をしていました。」 「捜し物?何か、落としたのかぃ?」 「−−はい。」 とたんに店主様は辺りを探し始めた。 ざざん、ざざん。 「−−あの・・・。」 「んおぅ?なによ?」 ざざん、ざざん。 「−−お手を患わす事はありません。どうか、お引き取りください。・・・それに・・・」 「それにって、なんだぁ?」 「−−何を探すかもお判りになられていないようですが。」 「ゲハハハハハハハ!」 店主様は草むらを引っ掻く足を止めて、こちらを向く。 「・・・そりゃそ・う・だ。ゲハハハ!」 「−−ですから、お引き取り下さいませ。」 「・・・。あぁん?」 「−−お気持ちだけで、十分で御座いますから。」 「ゲハハハハハ。貞淑でええ奴だな!うちの娘どもにも教えてやってくれよ!「お  んなのなんたるか」をよぅ。まぁ、旅は何とかっつーし、ほら、日ぃ暮れる前に  探せば楽ってもんさぁ。な!」 「−−確かに落日は気になります。」 「そうだろ?だったら、1人より2人の方が、早ぇ。」 「−−はい。」 「ほれほれ、おじちゃんに言ってみよ。何を落とした?」 「−−実は・・・」 【誕生日おめでとう!】 馬鹿馬鹿しい話である。今日は誕生日として小さなお菓子の入った袋を貰ったので あった。私はなぜか、戸棚に仕舞いこんでしまう演算も良しとせず、どう反応して 良いかも判らず、1日中持っていたのだった。 私は店主様に簡潔に話した。 「ええ、話やないか。1日中持っていたんだろぅ?それも手に持ってた。」 「−−はい。検索しても反応の行動事例がなく。困惑しました。処理を」 「難しいこと言いなさんなっへっへっへくしっ!こんちくしょうめ!」 「−−大丈夫ですか?」 「んまぁ。おぅ、それよりもメイド、探そう。」 作業が再開される。 ざざ、ざざ。 「−−はい。おそらく、重量からクッキーではないかと推測します。」 ざざん、ざざん。 「赤色の小袋っつってたよな。んじゃ、すぐに見つかるだろ。」 ざざ、ざざ。 ざざん、ざざん。 ざざ、ざざ。 ざざん、ざざん。 「メイドよぅ。なんで、こんなとこに落としたよ?」 「−−ここで、中学生が犬を虐待している様子でしたので。停止を進言しに・・・。」 「なんか、されなかったか?ほら、あ、ア、アオカンとか。」 「−−いいえ。少し蹴られたり、押されたりはしましたが。特に何もありませんで    した。」 「そうか。最近の若ぇもんは物騒な時も有るからよぅ。」 「−−はい。」 落日する。 高架橋の長い影も見えなくなり、私のCCDでも探すことは不可能になる。 「−−申し訳御座いません。もう、結構で御座います。ありがとうござ・・・」 「メイド、まだやめるって言ってねぇよ。あーちょっと待てぇ。」 お腹の衣服にある巾着から携帯電話を取り出す。 「−−あの・・・」 「娘にね、習ったんだ。ちぃとまだ難しいけどな。」 店主様は携帯電話を見せる。 「まずは、電源を入れてだな・・・。それから、0,1,青と押す。」 携帯に耳を当てる。 「ん、おぅ、ワシだ。きこえるかー?ばぁろぉ、仕事だよ仕事!別に酔っちゃねぇ。  ・・・ああ、飲んだとも!飲んで悪いかっつってんでぇ。」 「お、そうだ。用事は、うちのマルスケをよー、ちーとこっちに使い出してくれ。」 「おう!まるか?そかそか!配達は?・・・ささと済ませて、ちょっと来い!」 「それから、懐中電灯をいくつか持ってこい。じゃ、切るぞ。」 通話を切り、携帯の電源を切る。 「−−店主様、お帰りになられた方が宜しいかと・・・」 「ばぁろぅぃ!メイドさんっつーのはな、嘘つかねーし、まじめなんだ。家にもボ  ケメイドがいるけどな、でもハートはなめたもんじゃねぇぞ。」 「−−ハート・・・。」 「おうょ。根性もあらぁな。飯ばっかくってる家の娘らに比べたらなぁ。」 「かわいいもんさ。」 「そりゃ、孫とまではいかねぇがよ。」 しばらくすると河合酒店にお仕えするメイドロボが走ってくる。 両手にいっぱいの懐中電灯を抱えて。 「はわっ。あ、ここですね。おまたせしました〜。」 「おぅ、きたきた!掃除道具はいらねぇじゃねぇか!ボケマル助!」 「どうして、携帯電話が繋がらないのですか〜!」 「何言ってるんでぇ!こちとら、てえせつに持ってるぞ!」 日没のくさはらを左右に大きな光が飛び交う。 車の喧噪はにわかに、そして、列車の蹄鉄音が川面か響く。 「まるきち!ちょっと、こっち照らせ!」 −−月は・・・ 「はうぅ。難しいです〜。動かないで下さい〜。」 「ワーシてらしてどうすんじゃ!」 −−月は出ていますか? −−でも、サテライトに無い事象は多々有るのです。 −−たとえそれが水に溶けたクッキーとしても・・・。 −−たとえ電子的な記憶としても。 −−私には多くのかけがいのない・・・ 「おぅ、山口さんとこ配達したか?」 「はわわ〜!」 「−−あっ!・・・」 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−fin